Episode No.3546(20100106)
比較偉人論-第1章
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シェイクスピア アンデルセン
(3) 歴史に名を刻む方法

ウィリアム・シェイクスピア
William Shakespeare

1564年4月26日生/1616年4月23日没─享年51歳
イギリス生まれの劇作家。

ハンス・クリスチャン・アンデルセン
Hans Christian Andersen
1805年4月2日生/1875年8月4日没─享年70歳
デンマーク生まれの童話作家。

シェイクスピアの代表作といえば…
四大悲劇といわれる
「ハムレット」「マクベス」「オセロ」「リア王」をはじめ、
実際に読んだり観たりしたことはなくても、
聞いたことのある作品は数知れない。

生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ
…なんていうセリフは
冗談めかしに誰もが一度は使ったことがあるだろう。

しかし、この名ゼリフも
実はエジソンの格言
天才とは1%の才能と99%の努力である
…と同じく誤訳(?)とも言われている。

実際には…
何かつまらないなー
 生きてても何になるんだろうな〜
…程度の日常的な若者のつぶやきを
翻訳した坪内逍遥などが哲学的に受け止めて…
「永ろうべきか、はたはまた、
 永ろうべきにあらざるか、ここが思案のしどころぞ」
…と名訳=超訳してしまったために、
日本の哲学青年たちにウケて広まっただけの話らしい。
だから決して世界的に有名なセリフでもないようだ。

そもそも俳優になれなかったシェイクスピアは、
食うために戯曲を書いていたに過ぎず
…ウケるためには下ネタだろうが何でも書いた。

そういう意味では日本での超訳も
結果的にはウケたわけだから
作家の意図には即していないとはいえない。

同じく俳優の夢破れ、
詩や物語を書き始めたアンデルセンはというと…

シェイクスピアとは違い、
すでに劇場はクビになっていたので戯曲の道には進まず、
それまで世話になった人を訪ね歩いては、
お礼のつもりで自作の詩を朗読し歩いていた。

何も贈るものがないので、せめて朗読を
…といえば聞こえはいいが、
意地悪な見方をすれば金持ちの著名人相手に
自分の売り込みをしていたともとれる。

純粋さは天然の売りにもなる。

その売り込みは成功し、
大学に進むチャンスを得、
後に本を出版することに至る。

何せパトロンがいなければ
芸術家など食っていけない時代。

現代でも同じようなものかもしれないが、
ことにアンデルセンの時代は
たとえ本が売れても印税すらない。

芸術家といえども
売り込みができなければ食っていけない

さかのぼればシェイクスピアの時代にも
当然、印税という概念などは存在しなかったろう。

稼ぐことが目的でペンをとったシェイクスピアは、
30代の10年間、
観客にウケそうな話を書き続け…
当初の目的通り、ひと財産作ると、
パタッと書くのをやめ、
早々に田舎に引っ込んでしまった。

それでもシェイクスピアの戯曲が今日に残っているのは、
いつの時代にもウケていたからだろう。

もちろん、作品の出来がよかったことはいうまでもないが、
実際には時代によって、
あるいは国によって…
冒頭に書いたような超訳がなされ、
その時、その場所でウケるように
アレンジされてきたことに疑いの余地はない。

それなら、誰が書いたどんな作品でも、
そうなる可能性はあるのか…といえば決してそうではない。

最初に大ウケしていなければダメなんだ。

大ウケしていれば、その作品名や作家の名で、
後々の人がどういじろうが残っていくが…
一度もウケたことがないものをいじってみたところで、
…まず誰も見向きはしないだろう。

そういう意味では翻訳家も出版社も、
つまるところは商売をしているわけで、
彼ら自身が食っていくためにも
売れそうな題材を扱う必要がある。

かような理由で、
シェイクスピアはいわば、
世界初のエンターテイメント的な劇作家だったため
歴史に名を刻むことができた。

歴史に名を刻むためには
世界初の何かをしなければならない。

アンデルセンが歴史に名を遺した理由は、
それまで文学とは認められていなかった
童話を文学として認めさせたからである。

だから…
日本で手塚治虫
現代にも続く新しい漫画のスタイルを確立させ
漫画の神様」と言われたように、
アンデルセンは
童話の王様」と言われているのだ。
…もちろんアンデルセンのが、はるかに前だけど、ね。

看護婦さんといえば
世界中どこに行ってもナイチンゲールが有名なのは、
看護婦さんの中でナイチンゲールが有名なのではなく、
近代的な看護婦という職業そのものを
ナイチンゲールが作り出したからだよね。

【敬称略】

─明日につづく。
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