Episode No.081:デンマークの寅さん
父親は貧しい靴職人。しかも、彼が11歳の時、不遇の死を遂げた。
母親は洗濯女をしながら、ひとり息子である彼を育てた。
「この子にだけは、自分のやりたいことをやらせたい」
そんな父の遺志を継いで、彼は俳優、そして声楽家をめざすが、一向に芽は出ない。
そして、舞台に立つことをあきらめた彼が行き着いたのは、舞台の裏方を支える作家としての活動だ。
満足な教育を受けていない彼の作品は、まず文法的な問題から指摘を受けた。
しかし、彼の優れた感性を見抜いた人々に支えられ、彼も必死にそれにこたえて勉強をし直し、24歳で大学に入学すると同時に作品集を出版するまでになる。
その後、純粋な恋をしては、その恋に破れ、慰めの旅をする・・・という、まるで"男はつらいよ"の寅さんのような人生の繰り返し。
そのすべてが、創作活動の原動力。
ちょうど"とらや"の団らんで、旅の話をする寅さんに、まわりのみんなが引きつけられていくように、彼の作品も世界中で愛されたが、生涯を独身で通す結果となった。
1875年、70歳で亡くなった時。貧しい一家のひとり息子の葬儀は、国葬として行われた。
彼の名は、ハンス・クリスチャン・アンデルセン。
彼自身、"みにくいあひるの子"だったに違いない。 |