Episode No.843(20010509):天国に結ぶ恋

近松の『曾根崎心中』は・・・ATG映画になったのを観たなぁ。
宇崎竜童がサングラスをはずしたところを初めて見たのが印象的だった。

いきなり何の話をするかと思えば・・・今日の話題は「心中」。

今から69年前の昭和7=1932年の今日、5月9日。
大磯で男女の心中があった。

死んだのは慶応義塾大学の学生、調所五郎と資産家令嬢、湯山八重子。
『曾根崎心中』と同じく・・・結婚を反対されたのを苦にした心中だった。

生活力のない2人の心中・・・と言うだけなら珍しくもないのだが
この事件が語り継がれているのには別の理由がある。

それは・・・
仮埋葬された令嬢の死体が盗まれたのだ。

結局、死体は盗まれた翌日になって付近の海岸で発見された。
しかも全裸で。

犯人は65歳の火葬場作業員。
令嬢の美貌に魅せられて及んだ犯行だった。

検死の結果・・・令嬢はバージンのまま死んでいたコトがわかり
さらに世間をアッと言わせた・・・という話。

この事件は後に・・・
五所平之助監督が『天国に結ぶ恋』というタイトルで映画化もされたらしい。

しかし・・・ねぇ
心中した2人や死体を盗んだ男の「純粋な気持ち」は、わからないでもないけど
やっぱり理解に苦しむなぁ。

「2人で幸せになろう」・・・その結論が「死」というのが、まず理解できない。
本当に好きな人と一緒だったら・・・死んでもいい、と真剣に思える?

気持ちだって、結局のところは「肉体」に宿っているワケだし。
生きている以上はね。
それをも通り越して一緒になろうっていうのは・・・もう宗教的感覚だね。

最も恋なんて、他人に勧めないところが、宗教と違うところぐらいで
結局は好きな相手を信仰する宗教みたいなモンだろうけど。

そこまででは成就できないところが・・・難しいところだなぁ。

むしろ、この一連の事件の中で私が最も興味をそそられるのは・・・
65歳の火葬場作業員が、どんな生活をしていたのか、だな。

奥さんや子供はいたのか。
どんな友達がいて、どんな話をする人だったのか・・・。

いずれにしても・・・寂しかったんだろう、な。

私も寂しくならないように頑張って仕事しよ。
仕事と心中しない程度に、ね。


参考資料:「歴史の意外なネタ366日」中江克己=著 PHP文庫=刊