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Episode No.147(990215):心理物理学入門

「人間の心理というものは、案外、物理的に証明できるものだと思うんですよ」

と言っていたのは三島由紀夫。自決する、わずか一週間前のインタビューの中でのことだ。

確かにそうこうことってあると思う。

遠くの的を狙って銃を撃つ時には、当てたい場所の少し上を狙う。
引力によって弾道がずれることを考慮してのことだ。
これと同じで絶対に目標をクリアしたいと思ったら、目標以上に頑張る必要がある。

また、適度にやることは、やり過ぎるより難しいということを私たちは経験として知っている。
それは、ちょうど地球のある地点から出発して、どんどん先に進んで反対側に行って、さらに進みすぎると元いた場所に戻ってきてしまうということにも似ている。
丸い地球に住んでいるとは、そういうことなのかも知れない。

砂時計の砂は、つねに一定の速度で落ちているはずなのに、半分を過ぎた頃から、急に早く落ちていくように見える。
大衆の心理は過半数を超えたところで、残った者があせってまわりに準じようとするものだという。
実際、電気冷蔵庫の普及率は50%を越えたとたんに、あっという間に100%に近づいた。

人間は理屈や感情によって動いているつもりでいて、実は物理や化学の法則と変わらない行動をとっていることが少なくない。
行動を起こすのは肉体であって、肉体というものは単なる物体に過ぎないのだから、それも当たり前と言える。

物理や化学の分野でもまだまだ人間の目に見えないものは多いだろうが、研究が進めば進むほど、結局、人間も自然の産物であり、決して特別な存在ではないということが、わかってくることだろう。

やっぱり、自然から学ぶということは、人間を知るうえでも重要なこと・・・なんだ。


参考資料:「三島由紀夫/最後の言葉」古林 尚=対談 新潮カセット 新潮社=刊

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