Episode No.1048(20020103): おかえり、万次郎

今から151年前・・・1851年1月3日。

思いもかけぬ10年間のアメリカ留学を終え
戻ってきた男の名は、万次郎。

その後、ジョン万次郎と呼ばれた男の活躍は
幕末維新の物語に繰り返し語られている。

しかし・・・
とっくに死んだと思っていた息子が
いきなりネクタイなんかして戻って来た時にゃ
親兄弟は、さぞかしブッたまげたことだろうね。

もちろん、もう二度と生きては会えないと思っていただろうから
言いようのない嬉しさはあったと思うけど・・・
冷静に考えると・・・かなり困惑したろうね。

唐人お吉の話にも代表されるように・・・
当時は、まだ異人が怪物扱いされていた時代。

息子が生きて戻って来たのはいいけど・・・
異人になって帰ってきたとなっちゃあ
ヘタをすれば村八分になりかねない。

こんな風に・・・
歴史には残らなかった人たちの感情を
あれやこれや想像してみるのも面白い。

すると・・・
ものすごい英雄も人間臭く、等身大に思えてくる。

本当は・・・
みんな、ただの人間なんだから、当たり前なんだけれどね。

手塚治虫の漫画に『陽だまりの樹』というのがある。
アドルフに告ぐ』と並んだ歴史大河ロマンで・・・舞台は幕末。

あいにくジョン万次郎は登場していないが・・・
若き日の福沢諭吉などが生き生きと描かれている。

どこまで「本当」なのかはわほからないけれど・・・
本当か嘘か、ということより
読者が知りたいのは、いかに生きるか・・・なんだよね。

主人公は手塚治虫の三代前の祖先。
種痘をすると牛になると信じられていた時代・・・
江戸に種痘所を設置しようと奔走した医者だ。

全7巻の最後に・・・主人公のこんなセリフがある。

「歴史にも書かれねえで死んでいった
 りっぱな人間がゴマンと居るんだ・・・」

ジョン万次郎の母は・・・
戻ってきた息子に何と声をかけたのだろう?

そのひと言が、
後の日本の歴史に大きく影響していたのかも知れない。


参考資料:「陽だまりの樹」手塚治虫=著 小学館=刊 ほか