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Episode No.157(990226):法廷のショーマン

2.26事件から63年が経った。

時代を変えていこうとする若い力には、当時の民衆からの同情は強かったが、結局、首謀者たちは弁護人のいない密室裁判の後、銃殺刑となってしまった。

2.26事件からさかのぼること13年前。1923年11月26日。
ひとりの男が法廷に立たされた。
幸いこの法廷は2.26事件の青年将校たちと比べれば、きわめて民主的なものだった。

男は一介の田舎政治家。
"維新"の旗印を掲げて、一揆を起こしたものの、あっけなく鎮圧され獄中へ。

確かに男の行動は無謀ではあったが、口先だけの政治家が多い中で、実際にコトを起こした、この男に民衆の人気と注目が集まりつつあった。

獄中から腹心の部下に「今回の事件は、計画から実行まで、すべて自分ひとりで行ったことで、他の誰も関係がないことにする」という方針を伝えていた男は、法廷でもその態度を貫き通し、最終陳述では、力強くこう訴えた。

「人に押されて進むのではなく、自分で目標をかかげて前進する。私は一揆に関する全責任を自分一人だけで引き受ける」

国中が注目する法廷における彼の主張は、部下たちはもとより、民衆をますますシビれさせた。
さらに、獄中で書いたと言われる書物が広がり、一介の田舎政治家は全国に名を売ることになる。

必ずしも、すべてが彼の計算によるところではなかっただろう。
日々の暮らしに不満をつのらせていた民衆は"英雄"を待っていた。
その"英雄"像をうまく演出しつつ、成り上がっていった男は、ひと度、権力をつかむと"20世紀が生んだ最大の悪魔"へと変貌していく・・・。

アドルフ・ヒトラー34歳。
法廷における命がけのショーは、大成功をおさめた。


参考資料:「天下をとる技術 新ヒトラー物語」片岡啓治=著 てらこや出版=刊 大和書房=発売元

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