Episode No.463(000221):ただの自分
							夏目漱石の千円札にも、もうすっかり馴染んじゃったけど・・・。
							はたして、漱石が生きていたら、自分の肖像をお札に載せるコトなんか承諾したかどうか???
							
							漱石といえば、それこそお札になるほどの日本を代表する文学者だけど・・・。
							決して文学博士・・・だったワケではない。
							
							と、言うのも漱石の業績に対して文部省は文学博士号の称号を贈ったが・・・。
							漱石はそれを返上してしまったからだ。
							今からちょうど89年前・・・1911年2月21日のコトだ。
							
							理由は一言・・・「ただの夏目でいたい」。
							
							英文学の教師だった漱石が作家一筋の道に入り、実際に世に知られる作品を発表し出したのは、38歳から亡くなるまでのわずか12年間。
							
							作家活動に比べれば教師として生徒に接している時間の方が、はるかに長かった。
							
							地位や名誉にこだわない漱石の元には、芥川龍之介や寺田寅彦など、その後の日本文学界に影響を与えることになる若き才能が次々と集まってきたが・・・。
							
							教師としてのキャリアが長い漱石にとっては、毎週木曜日に開かれた弟子たちとの集いの方が、作家活動よりずっと楽しみだったに違いない。
							
							漱石の言う「ただの夏目」は、まつり上げられた大先生などではなく・・・。
							時には若者といっしょになって無邪気にはじゃぐ自分。
							
							それから、もうひとつ・・・。
							
							生まれて間もなく養子に出された漱石が、ようやく元の夏目姓を名乗れるようになったのは21歳になってからのコト。
							
							そんな漱石にとって「ただの夏目」でいられることこそが一番大切だったのかも知れない。