Episode No.981(20011017):ビジュアリストたち

北野武監督・脚本・編集の「菊次郎の夏」を観た。

スーパーの店頭にワゴンで出ていた中古ビデオ・・・
邦画は本数が少ないから、出てるとよく買う。

偶然にも同時に買ったのは・・・
浅井慎平監督・撮影、タモリ主演の「キッドナップ・ブルース」。
こっちは、かつて劇場で観た覚えがある。
昭和57年度作品・・・ってことは、1982年だから、もう20年近く前の映画だ。

「菊次郎の夏」は'99年の作品だから観ている人もいるだろうけど・・・
両方とも観ている人は少ないだろうな。

この2本・・・物語のシチュエーションや雰囲気が実によく似ている。

2本とも、いわゆるロード・ムービーと言われる旅の話だし・・・
哀れな男が子供を連れていくという点も同じだ。

もちろん、その淋しく哀れな男が・・・
テレビではお笑いをふりまく人気者という点もいっしょ。

さらに・・・
両方とも描き方が淡々としていて、良く言えば絵画的。

北野作品では、よく何が起こったのか・・・その結果のシーンだけが出てくるよね。
殴り合いのシーンはなくて・・・
にらみ合いの後、別なシーンをはさんで元のシーンに戻ると
鼻血を出しているヤツがいたり。
「キッドナップ・ブルース」も監督がカメラマンだけあって、
カレンダーのような風景が延々と映し出されていたのが印象に残っている。

また、両作品とも音楽が実に印象的。
「菊次郎の夏」は最近自ら監督も手がけている久石譲。
この曲は、ビートたけしが出ていたカローラのCFでも使われていた。
「キッドナップ・ブルース」の方は・・・
ジャズ・ピアニストの山下洋輔が音楽を担当している。

似てるから「菊次郎の夏」が「キッドナップ・ブルース」の真似だなんて思わない。
好き嫌いは別として・・・北野武は、やっぱりスゴイよ。

所ジョージは黒澤映画に出ても所ジョージだけど・・・
ビートたけしは、映画を撮ると北野武だもんなぁ。

北野作品には、ご承知の通りによくヤクザが出てくる。
あまり有名な俳優を使っていないせいもあるけど・・・
北野作品に登場するヤクザは実に生活感があってリアルな感じがする。

きっと・・・実際にそういう人が
幼少時代の北野武のまわりには、たくさんいたんじゃないかな。

まるで記憶の断片を次々と描き出すような映像は説明的にならず詩的にうつる。

「最近の写真(映画)は、説明が多すぎるよ。
 その点、ビートくんのはいい」

・・・と世界の黒澤は、北野作品を称えた。

「タケシの作品には詩がある」

・・・と初期作品から北野武を映画人と認めたのは淀川長治だった。

詩的な映像の秘密は、北野武がいつも欠かさず持っている10冊のノートにあるようだ。
そのノートには、構想中の映画のアイデアが詰まっているらしい。
それも文字ではなく・・・絵で。

言葉や文字では説明的過ぎる・・・
絵でモノを考える習慣・・・
自分独自のイメージや新しい発想は、そこから生まれてくるようだ。

ただ・・・詩を読んだり、観たりするには体力がいるけどね。
1から10まで説明してもらった方が楽ではある。
楽だけど・・・ただ、それだけ。
マニュアルを読んでも・・・感動はないでしょ。


参考資料:「キネマ旬報増刊/北野武」キネマ旬報社=刊 ほか