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本当は画家になりたかった。

現に彼は、18歳の頃には二科展にも入選するほどの腕前も持っていた。
だけど絵描きなど到底食べていくことはできない。
兄貴たちは戦争で亡くなってしまい、長男のような責任も負わされていた。

募集広告を見て、何となく受けたその会社から採用通知が来た時、

「受かっちゃったんだけどあまり行きたくねえんだよな」

と顔を曇らせる彼に向かって、父は言った。

「おまえにちゃんと給料払うっていうていうのは珍しいから、辞めるんだったらいつでも辞められるから、しばらく行ってみな」

こうして1936年、26歳でPCL(現・東宝)に入社した黒澤明は、助監督経験を積んだ後、33歳で監督デビューする。デビュー作は『姿三四郎』。

「緊張したのは、三四郎の最初のワンカットだけ。あとはもう映画づくりというやつが、楽しくて仕方なくなった」

以来、88歳となった今日(1998年9月6日午前0時45分)まで、作品にかける情熱は衰えることがなかった。合掌。


参考文献:「黒澤明/宮崎駿/北野武 日本の三人の演出家」Cut特別編集 ロッキング・オン=刊 ほか

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