Episode No.1001(20011109):人生を演出できるか?

「ものを創造するというのは、記憶なんですよね。
 記憶が全部土台になっているんだ」

新しい記憶媒体として普及度が高まるDVDのビデオから
故・黒澤明が、そう語りかける。

『黒澤明からのメッセージ』と題されたこのDVDには・・・
映画になるものについて/脚本について/絵コンテについて、
撮影について/照明について/美術について、
衣装について/音楽について・・・そして、演出について・・・と
映画づくりの各パートについて、
黒澤明自身がインタビューに答える姿がビッシリ82分間詰まっている。

おもに『八月の狂想曲』を製作した頃の話を中心にしているが
話の内容は半世紀以上にわたる黒澤明の映画人生の総決算という感じ。
DVD化されたのも、死後のことである。

そこには・・・
黒澤映画の好きな人はもちろん、
観たことがない人も嫌いな人をも吸い込んでしまうような
静かだが力強い、迫力と説得力がある。

適当でないかも知れないが・・・
たまたま通りかかったところにいた飴細工の職人の腕に
つい見とれて足を止めてしまうような感じ。

脚本だの、絵コンテだのといった話は、やや専門的にはなるが
最後の「演出について」の部分をとくに感じ入って聞く人は少なくないだろう。

ただし、実を言うと・・・
この「演出について」の部分が、一番語られていない部分でもある。

つまり、うまく言葉にはできないし、教えるのも難しい・・・というわけ。
なぜなら・・・
それは、その人が生きて、感じ、学んでてきたものがそのまま出るから、だという。

しかし、そこにこそ・・・
たとえ映画業界を知る者でなくとも、
大きなメッセージを感じることはできるから不思議だ。

生きることは、実践する、ということ。
実践の中で自分の能力や、他人の気持ち・・・人間がわかってくる。
実践から逃げていては・・・寅さんのセリフじゃないけど
ただの糞製造器になってしまう。

そんなメッセージを、ね。

たとえ今現在、自分ができることが
本来やりたいこととは別なことだとしても・・・とにかく一生懸命やるしかないんだ。
そこから得たモノは、きっと将来役に立つだろう。

今をバカにして中途半端な気持ちでいる奴には・・・
たとえチャンスが巡ってきも・・・それを生かすことはできない。

例えば作家になりたい奴は・・・
たとえ今はラーメン屋の店員をしていたとしても
店の一軒くらいは構えることができる奴。

少なくとも・・・人の気持ちが理解できる奴なら、
どんな世界にいても出世できるはず。

今の自分は仮の姿・・・なんて思わないことだ。
自分はいつでも自分でしかないんだからね。

実りのある記憶を・・・今日はどんな実践から手にできた?


参考資料:DVD「黒澤明からのメッセージ」日本ビクター