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Episode No.191(990407):お金が稼げりゃプロ・・・じゃない

映画俳優やタレント、あるいはプロスポーツ選手でもない限り、仕事の中では誰もが黒子である。

どんなにセールスがうまい営業マン、もとい! 男女雇用均等法によれば"販売スタッフ"がいたとしても、主人公は販売する商品。
有名な料理人や建築家なら、その人が作ったというだけでブランドイメージが強まるかもしれないが、実際に評価されたり、販売されるのは作品であり、本人ではない。

プロの仕事の条件は、まずその仕事に徹する・・・ということが挙げられる。

映画キャメラマン楠田浩之は、おもに木下恵介監督とコンビを組んで、日本映画史に残る名作を残したキャメラマンの中のキャメラマンと言われている。

大島渚がまだ新人監督だった頃、初めての長編を作ることになり、撮影を楠田が担当した。
撮影現場を決めるためのロケハンに向かう時、大島は車のドアを開いて「どうぞ」と勧めた。
すでにベテランキャメラマンだった楠田に対する当然の礼儀のつもりだった。
しかし、楠田はこう言った。
「確かに私は先輩ですが、監督はあなたです。大島さん、どうぞ先に乗ってください」
この一言に大島は、背筋が伸びる思いがしたという。

かと言って、楠田はすべて監督の言うとおりにしたかと言えば決してそうではない。
むしろ監督より先に撮るべき風景を見渡して、気に入らないモノがあれば妥協せずに排除した。
こうした姿勢があってこそ、監督からの絶大な信頼を受け、総合芸術である映画の質を高めることができたのだろう。

黒子であれ、アシスタントであれ、言われたことだけやっているうちは半人前。
まだプロと呼ぶには、ほど遠い。

「キャメラマンにとって一番大切なものは何ですか?」
と、いう問いに楠田はこう答えている。
「それは台本がちゃんと読めることだよ」

キャメラマンとしてお金をもらっている以上、キャメラを操作する技術があるのは当たり前。
それ以上の何かを読みとる目があってこそ、はじめてプロと呼べる。

金をとるだけならアルバイトにもできる。
プロになってこそ一人前と言えるんじゃないだろうか。


参考資料:「映画キャメラマンの世界」渡辺 浩=著 岩波新書=刊

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