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Episode No.808(20010329):人をつなぐのは素朴な感情

毎日、満員電車に揺られてる方々には申し訳ないけれど・・・
たまにしか電車に乗らない私は、車中で出くわすことが何ともモノ珍しく感じられる。

ちょっと前にも某有名TV司会者に出くわしたし。
昨日、乗った時にはとくに有名人を見かけたわけじゃないけど・・・
窓の外を眺めていたら・・・ちょっと異様な光景に出くわした。

通り過ぎる駅のホームの端・・・
そして踏切やちょっとした高台に・・・
バズーカ砲のようなレンズを構えたカメラ小僧たちが、黒山の人だかりを作っているのだ。

よほど変わった列車でも通るのかと・・・早速、車掌に聞いてみた。

「はい。お召し列車がね、珍しく。ここしばらく、なかったですから」

お召し列車とは・・・ご承知の通り「天皇陛下専用」列車のことだ。

確か乗られるのは原宿駅。
正月の混雑時と、そしてお召し列車が走る時だけ使う専用のホームがある。

今回の行き先は、北鎌倉のようだ。
葉山の御用邸に・・・珍しく電車を使っての移動、というわけだ。

車掌は結構、話好きの人だった。

「最近はねぇ、お車での移動が多かったんで。
 お召し列車の乗務員は、選りすぐりの人たちで・・・
 ホラ、何かあるといけないから、腕もたつ人たちが乗るんですよ。

 本当はねぇ・・・」

と少し顔を曇らせた車掌が続ける。

「お召し列車走らせるのは大変だから・・・
 ヘリコプターでも使ってもらえると助かるんですけどねぇ」

確かにダイヤの調整はもとより・・・
見れば、踏切という踏切、そして歩道橋などに警察官が張り付いている。
そういえば乗車した駅の近くでも、その日はパトカーをよく目した。

しかし、原宿から北鎌倉まで・・・
いったい、いくつの踏切や歩道橋があるんだろう?

車掌は興味深く話を聞く私の顔を見て、あわてて言った。

「いや、これは言っちゃいけないことです」

じゃあ、見ず知らずの客に向かって話すなよ・・・
と思わなくもなかったけど・・・おかげで面白い話が聞けた。

本田宗一郎は、藍綬褒章を受けた時の晩餐会で・・・
高松宮殿下にこんな話をしている。

「マナーを作法と直訳しますが、実はまったく異質なもんです。
 素朴な人間感情を表現して伝え合うことこそがマナーじゃないでしょうか」

あの車掌にはマナーがあった。
そして職務に対する責任感も・・・ないことはなかった。


参考資料:「名言大語録」今泉正顕=編著 三笠書房=刊 ほか