Episode No.563(20000616):無から有を生み出す魅力 「物が創られる現場の光景は、常に魅力的である」 そんな"まえがき"に誘われて買った一冊の本がある。 山田洋次、朝間義隆共著による『シナリオをつくる』という本だ。 この二人が共同脚本をしていた・・・といえば言わずと知れた『男はつらいよ』シリーズ。 寅さんファンの私としては"まえがき"にどんなコトが書かれていようが間違いなく買うコトになったはずだ。 新作映画の宣伝のために、テレビでメイキングなどを放送していると・・・。 たとえ観るつもりもない映画だったとしても、ついつい画面に引きずり込まれてしまう。 「映画館で見るとあまり面白くない映画でも、製作現場は必ず面白いものである」 確かに、その通り。 しかし映画のメイキングというと、たいていは撮影現場がメイン。 この本は、山田洋次と朝間義隆が行きつけの旅館、神楽坂にある「和可菜」で脚本執筆のために泊まり込みで会話を重ねている様子を録音し、テープ起こしした原稿をまとめた・・・いわば、シナリオのメイキング本だ。 話は、あっちへ飛び、こっちへ飛び・・・第三者から見ると、いったい何の話をしているのかわかならくなってしまいそうだが・・・。 途中にはキチンとした説明も入っていて、読み手の側も充分、会話に参加した気分になれる。 題材となっているのは1992年公開の第45作『寅次郎の青春』。 最終作の4本前・・・マドンナは床屋の主人役の風吹ジュンだった。 旅館の部屋には小さなテーブルがひとつ。 テーブルの上にはワープロとスタンド・・・ワープロに原稿を打ち込んでいくのは朝間の仕事だ。 最初のうちは、脱線の連続を繰り返していた会話も・・・。 ここだ、というレールを見つけて走り出すと・・・早い、しかも正確。 あそこまでキャラクターができ上がっている世界だからこそ可能なコトなんだろうけど・・・。 山田監督の口からは、いきなり決定稿に近い、登場人物たちのセリフが生き生きと飛び出してくる。 時折、朝間が口をはさむと、ますます調子が上がっていく・・・まるで浪曲の相三味線のような間合い。 あえて話の的をしぼらずに可能性を探る場面・・・。 そして、しぼった的に集中して正確なディティールまで見せる技。 これが・・・プロの仕事だな。 可能性ばかり広げてみても・・・何ひとつ仕事は先に進まないモン、ね。
参考資料:「シナリオをつくる」山田洋次+朝間義隆=著 筑摩書房=刊
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