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Episode No.100:馬鹿は死ななきゃ直らない

本当のことを話したために人がとんだ災難に遭う。
そういう本当は役には立たない、そういう時には嘘をつけ。
嘘は方便、ところによると宝になる。

そうやって兄貴分の大政に説教されて旅に出た森の石松は、自分が大金を持っていることを正直に話してしまったために騙し討ちにあって37歳で殺された。

ご存知! 二代広沢虎造の名調子、清水次郎長伝・・・と書きたいところだが、今、インターネットを見ている人の中に虎造の浪曲を聞いたことがある人は、ほとんどいないだろう。
もちろん私も実際に聞いたことはないが、CDでは毎日車の中で聴いている。

浪曲は簡単に言えばミュージカルのようなもので、肝心なところになると唄が入る。ほかの部分は落語にも似ている。私が浪曲に惹かれるのは、そこに人間哲学があるからだ。

石松殺しを描いた何編かの浪曲は、一貫して"人間の知恵"について繰り返し語っている。

馬鹿は死ななきゃ直らない〜♪ と唄われた愛すべきキャラクターの石松は、力は強いが素直な男。
しかし、純粋なだけでは世の中は渡っていけない。つまり、ここで言われている馬鹿とは"馬鹿正直"を差している。

有名な「飲みねぇ、食いねぇ」のエピソードにしてもそうだ。
たまたま渡り船に乗り合わせた客がヤクザ者の話をしている。自分の親分である次郎長を街道一と言った男をつかまえて酒をおごりながら、石松は清水一家の子分の中で誰が強いか尋ねてみる。もちろん写真などない時代の話だから、相手は自分の目の前にいる男が清水一家の森の石松だとは思ってもいない。
しかし、なかなか石松の名前が出てこない。そのやりとりが実におかしい。

本当を言うと相手の男は清水一家で一番強いのは石松だと最初から知っている。
だが、目の前にいる男が、噂に聞いた森の石松と同じように片目が悪いので、わざとその話にならないように避けていた・・・という理由がある。

クリスマスのイルミネーションに照らされる街を腕組みしながら歩いているカップルの1人が、ふと

「今は楽しいけれど、来年はこうしていっしょにいるという保証はないね」

と、言ったらどうだろう? 来年どころか今夜の楽しみもなくしてしまうんじゃないだろうか。

かと言って"不適切な関係"も、どうかと思うけど・・・。


参考資料:「二代 広沢虎造」日本の伝統芸能シリーズ・浪曲 テイチク

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