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Episode No.491(000324):うそも方便

うそも方便・・・という言葉がある。

私の大好きな
広沢虎造の浪曲では、森の石松が馬鹿正直を通したために騙し討ちされてしまうという、生きるための知恵について説いた話が多い。

"方便"を辞書でひくと、こう出ていた・・・。
仏教で、人を真の教えに導くための仮の手段。「うそも―」。転じて一般に、目的のために利用する便宜的な手だて。

確かに、事実を言うのは簡単だけど、真意を伝えるのは難しい・・・と感じる場面は実に多い。
仮に目的はハッキリしてても伝える手段を間違えると、伝わらないどころか誤解をまねいてしまう。

そういう意味でも、最近
BBSによく遊びにいらしてくださるコミックストーリー作家の剣名舞先生や、お芝居や映画のシナリオも手がける福田卓郎さんは・・・今さらながら方便のプロだよなぁ。

漫画でも映画でもお芝居でも・・・観客はウソだと知ってて、そこにお金を払うわけで。
気持ちよく騙されるコトを望んで、自分の時間をそうした作品に接するためにあてている。

大好きだった
淀川長治さんが、こんなコトを言っている。

「映画の一番大切なことは話し方。
 よくテーマだとか、いろいろなことばかり書く人があるけれど、本当は話し方。
 その話し方のうまい人のことをうーんとほめてあげたいですね。
 映画は話術ですね」

絶対にあり得ないようなSFチックな作品だって、それを観て楽しかった・・・という思いは真実になる。

秋葉原の駅前で実演販売をする人たちから、ついつい物を買っちゃうんだって・・・。
きっと「これを買ったら便利な暮らしになるに違いない」と信じさせてもらえるからだろう。

「絶対、幸せにしてみせる」なんてプロポーズの言葉に思わずOKしてしまうのも・・・。
この人といれば幸せになれるような気がすると思えるからで。
「じゃあ、どうやって幸せになれるのか具体的に言ってみてよ」と言われたら、その答えはだんだんウソくさい話になってしまうだろう・・・絶対なんてあり得ないんだから、ね。

時にはストレートに「好きだ」と言われたいコトはあるかも知れないけれど・・・。
言われたとたん消えてしまう言葉より、じわじわと感じさせてくれるモノがあった方が、本当の思いは伝わるような気もする。

『男はつらいよ』の中で・・・。
旅先から戻った
寅さんを囲んで、家族みんなが寅さんの話に聞き入る場面がよく出てくる。
寅さんは、まるで浪曲でも聴かせるように臨場感いっぱいに旅先での話をする。
映画なんだから回想シーンをはさめば良さそうなモノだけど・・・そうじゃないトコが、いいんだなぁ。

私も寅さんみたいに・・・。
小難しい理屈ばかりじゃなく自然に聴かせる話ができるようになりたい、な。


参考資料:「映画の話術」淀川長治=著 朝日出版社=刊

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