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Episode No.372(991104):人間にできること

さいとうたかを&戸川猪佐武『大宰相』・・・その続きを読んでいる。

第7巻の舞台は昭和50年代のはじめ。
現在は監督として注目を集める王貞治が、756号ホームランを打って国民栄誉賞第1号に輝いた頃の話だ。

王に国民栄誉賞を授与したのは、時の総理大臣、福田赳夫。
福田内閣の幹事長は、
田中角栄と同盟関係のある大平正芳だった。

「一期やったら後は大平君に譲る」・・・こうした約束は、
吉田茂の頃から守られたためしがない。
昭和53(1978)年11月の総裁選挙で牙を向け合う大福。

結果は、闇将軍・角栄の力を得て大平正芳が周囲の予想に反して圧勝。
角福戦争に敗れた時と同じ屈辱を福田赳夫は再び感じることになった。

組閣を終えた大平が闇将軍に報告の電話を入れる。
「角さん、やっとすべてが終わったよ」
電話の向こうから激がとぶ。
「いや、これから何もかもが始まるんだ! 人間、いつも始まりなんだ。これが終わりだと決めてくれるのは"運命"だけだ。・・・このことを忘れてはいけないよ」

原作の戸川猪佐武は元新聞記者とはいえ・・・どうして、こんなプライベートな電話の内容までドラマにできたのだろう? 不思議でならない。

それにしても劇画はいい・・・似顔絵もよくできてるし。
これだけ大勢の人間が入れ替わり立ち替わり出てくるドラマを名前だけで追ってたら、ワケがわからなくなりそうだ。

ともかく、この時の角栄の言葉は重い。

チャップリンのライムライトにも、こんな有名なセリフがある。
「時は偉大な作家だ。いつでも完璧な結末をつける」

確かに人間にできるコトと言えば、何かをはじめるコトだけかもしれない。
その結末に対して決して無責任であってはならないが、思い通りにいかないからといって悲観するコトはない。
思い通りにいく方がむしろ不思議だ。

大平正芳が首相在任中に急逝するのは、1年半後・・・昭和55(1980)年6月のことだ。

行く先が見えないから進めない・・・というのは言い訳にならない。
いかに優秀な人間であろうと、誰一人本当の未来を知る者などいないのだから。

行き着く先は時の運・・・歩み出すのは勇気と信念の問題。

ちなみに今日11月4日は、自らの信念に基づいて前任首相の逮捕を承諾した三木武夫元首相の命日(昭和63/1988)だ。


参考資料:「大宰相」戸川猪佐武/さいとうたかを=原作 早坂茂三=解説 講談社+α文庫=刊

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