Episode No.2870(20071101):
影を利用した男
歴代首相の人気投票では
毎回トップ3以内に君臨する吉田茂は
元・外交官。
戦中には戦争反対を唱えて
投獄されていたこともある。
その勇気ある行動が認められて
戦後は首相にまでなったのだが・・・
敗戦国の首相ほど
大変な仕事もなかっただろう。
トレードマークのパイプを口にする
連合司令官マッカーサーと
対等に交渉を進めるために、
初対面の吉田茂は、葉巻をくわえて見せた。
こうした一挙一動が
後の交渉に大きく影響してくることになる。
吉田の要求する435万tの食料輸入に
マッカーサーが応じなかった時のこと・・・
マッカーサーの赤旗嫌いを知る吉田は、
このままでは暴動が起き、
ソ連がそれを後押しして
日本国中に赤旗が立つ・・・と脅しをかけた。
結果、吉田の要求する量の物資は
無事、日本に入ることになったのだが・・・
後日その基本データとなった
農林省の報告書を見たマッカーサーは
激怒して吉田を呼びつけた。
「このデータには、まったく正確性がない。
70万tでよかったはずだ」
しかし、吉田はたじろぎもせず
・・・すまして、こう答えた。
「我が国のデータが正確なものなら、
おそらくアメリカに負けることはなかったでしょう」
交渉事に噂や虚構を使うことは、よくある話。
しかし、それは・・・
その場限りの言い訳ではなく、
その先の大儀を貫くためのものでなければならない。
こうして敗戦国・日本を
講和までもっていった吉田茂も・・・
その後、首相の席を三木武吉に追われることになる。
鳩山一郎を首相に座らせようとする
三木の執念が作り上げた「噂」によって・・・。
参考「劇画・内閣総理大臣伝」原田久仁信=画 よつや文=作 実業之日本社=刊