Episode No.1149(20020501):アイデアは金になるか?

アイデアを活かした商売は儲かる・・・
なんてことをよく耳にする。

今、ロシアのロケットで10泊11日の宇宙の旅を楽しんでいる
民間人で2人目の旅行者は、まだ28歳。

26億円という、とてつもない費用を自腹で払えたのは
何でもインターネット関係で大儲けしたからだとか。

アイデアというものは・・・
いかなる天才でも、自分だけで創り上げるのは、まず不可能。

たいていのは発明、発見は、
自然界に元からある何かに気づくことであり
商売のアイデアだって・・・
後になってみれば
「そんな程度のことなら私も気づいていた」
と言う人は多い。

先日、こんなドキュメンタリーを見た。

『奇跡の7週間〜X線の発見』

現代医療にも欠かすことのできないX線の発見で
1901年、第1回ノーベル物理学賞を受賞した
ウィルヘルム・コンラッド・レントゲンの物語だ。

当時、大学の研究室で
陰極線と呼ばれる放射線の研究をしていたレントゲンは
自分の手をある光に当てて仰天する。

それまで言われていた陰極線とは違う未知の放射線・・・
X線発見の瞬間だった。

レントゲンが使っていた
陰極線を取り出す実験器具を開発したのは
同時代の物理学者フィリップ・レナルト。

レントゲンによるX線の発見が世界中の話題を呼ぶと
それまでレントゲンにも協力的だったレナルトの態度は一変する。

実を言うと第1回ノーベル物理学賞では
レナルトも候補にあげられていたが、
審査委員の圧倒的な票を集めたのはレントゲンだった。

そのことに対しても死ぬまでレナルトは
レントゲンを妬んでいて・・・
自分の書いた物理の教科書にも
レンドゲンが名付けたX線という言葉は用いらなかったほど。

レナルトに限らず・・・
レナルトの実験器具を使って
X線とおぼしきものに遭遇した科学者は
ほかにも大勢いたかも知れない。

しかし・・・
その未知の放射線にX線という名前をつけ
奇跡の7週間と言われる期間、研究室に寝泊まりし
それを証明する論文を書いたのは・・・レントゲンだけだ。

アイデアだけでは、何の自慢にもならない。
それは・・・誰でも持っているものだから。

アイデアによって名を残したり金を稼いだりするのは・・・
アイデアをカタチとして証明する
ドロ臭い肉体作業があってこそ、だ。


参考資料サイエンス・チャンネル「奇跡の7週間〜X線の発見」文部科学省=製作