Episode No.978(20011013):たった4〜5万の恩

昔・・・私が社会人になりたての頃、ずいぶん世話になった人がいた。

取引先の営業の人だったんだけど・・・
年輩のわりに若い連中ともよくつるんで、明るく、面倒見のいい感じの人。

私が仕事に慣れて・・・会社を移った後、電話がかかってきた。

「給料袋を落としてしまったんだけど、2〜3万貸してくれないか?」

とりあえず1〜2万円貸した。
しかし・・・同じような電話が翌月もかかってきた。

毎月、給料袋を落とすなんて・・・何とも不自然。
後から噂で聞いたところによると・・・その人は会社をクビになってたらしい。

面倒見はいいけど・・・結局、会社を使って自分を大きく見せていただけ。
クビになった直接の原因は知らないが・・・
おそらく、それがエスカレートして会社に損害を与えたに違いない。

その人に最期に会ったのは・・・
2度目の金無心の電話があった直後・・・都内の喫茶店。

「3万か、4万」と言うので「3万だったよね、はい」と釘を刺して渡した。

無論、戻ってくるとは思っていない。
世話になった人だから、あげるつもりで渡した。

計4〜5万・・・決して少ない金額ではないが、
この4〜5万で世話になった分が人間関係とともに精算されてしまったワケだ。

それ以降・・・その人からの連絡はないし、こちらからもあえて連絡はとってない。

最初は会社に甘えていたんだろうな。
その分、会社に貢献すれば問題はなかったろうけど・・・
甘えっぱなしで見限られてしまった。

そうなったら、もう甘えることは許されないはずなのに・・・
甘えもクセになる。

そういうクセがついてしまった人は・・・
甘えてはいけないところでも強引に甘える先を見つけて、最後は嘘をつく。

嘘がバレない先にしか進めないから・・・
どんどん生きるフィールドも狭くなってしまう。

すべてにおいて正直な人間など、まずいないと思うけど
たとえ小さな嘘でも・・・
どんなをつくかで、その人の性格や器の大きさは、だいたいわかっちゃうよね。

「正直であることがいちばんの策だ。
 ・・・金がからんでいるときには」・・・マーク・トゥエイン

恩や情は、金にかえられないから価値がある。
金に換算できるような付き合いなんて・・・したくない。
それが、たとえ仕事ではじまった付き合いでも、ね。


参考資料:「マーク・トゥエイン150の言葉」ジョン・P・ホームズ&カリン・バジ=編 ディスカヴァー21=刊