Episode No.965(20010928):踊らせる側、踊る側

ゲーテの評伝を読みながら・・・
「若きウェルテルの悩み」のページを開き始めたことは、つい先日話した。

「若きウェルテルの悩み」・・・暗い話だな。

まだ、全部読んだわけじゃないけど・・・
簡単に言うと、婚約者のいる女性に恋した若者が
いざという時には煮え切らず、恋心をうちに秘めたまま
最後はピストル自殺をしてしまう、という話だ。

それが書かれた頃のゲーテの生活を同時に読んでみると
この暗い話も・・・別な意味で面白い。

ゲーテにとって「若きウェルテルの悩み」は処女出版物。
刊行されたのはゲーテが25歳の時だ。

ゲーテ自身、婚約者のいる女性に恋心を抱いたことはあるようだけど・・・
もちろんピストル自殺などしていない。
ピストル自殺をした知人の話と自分の想いをうまい具合にミックスして作られたのが
「若きウェルテルの悩み」というワケ。

書き方が、また面白い。
手紙形式で綴られている。

当時、手紙は最新の流行で・・・今で言えばメールのような感覚だったらしい。
確実に届く、までには至らなかったが
せっかく届いた手紙は、受け取った人間が酒場など人が集まる場所に持っていき
大勢の前で読んで聞かせるのが習慣になっていた。

つまり、現在の手紙のように親展ではなく
いわばホームページのように不特定多数の人間に読まれることを前提に書かれていた。

ゲーテは、その流行をうまく利用して「若きウェルテルの悩み」を書き上げ・・・
狙い通りベストセラーにした。
もちろん・・・万人の心に響く内容があってこそ、だろうけど。

ベストセラーになると、やがてその世界に憧れ、真似をする人間も出てくる。
事実、ピストル自殺した者も少なくなかったらしい。

ゲーテは、そんな世相を横目に・・・83歳まで生きたけどね。

私の知ってる某パンクバンドの連中に、以前こんな話を聞いたことがある。

「ボクらが安全ピンを顔に刺したフリのメイクをしていたら・・・
 本当に安全ピンを顔に刺しているお客がいて
 思わず目をそむけちゃいましたよ」

踊らせる側と踊る側・・・
両者の決定的な違いは、やはり自分の価値観を持っているか、どうかだと思うな。

いいコトは真似をしたって構わない。
でも、その方が楽だ・・・なんて思ってやっても、ちっとも格好良くない。

無論、送り手側の責任はあると思うけど・・・
受け手の方が圧倒的に数は多いんだからね。
受け手がシッカリしてないと、送り手だって、いいかげんになっちゃうだろう。

簡単に戦争だなんて・・・騒ぐべきじゃないと思うな。


参考資料:「ゲーテさんこんばんは」池内 紀=著 集英社=刊