Episode No.907(20010723):真夏の半漁人

先週の土曜日の朝・・・
事務所に行く前に電車に乗って、北鎌倉まで行った。

鎌倉・・・というと、首都圏からはずいぶん離れた印象があるが
案外近くて、東京駅からでも1時間とかからない。
私の事務所は横浜にあるから・・・北鎌倉まで30分くらいのものだ。

目指す先は、北鎌倉駅の目の前にある円覚寺。
実は、うちの墓はここにある。
と、いってもこの暑い最中、墓参りに行ったわけではない。
うちの墓は建っているだけで、まだ誰も入っていないしね。

一応、檀家なので、円覚寺からさまざまな案内が送られてくる。

余談だけど・・・
うちの子供たちはみんな鶴岡八幡宮でお宮参りをした。
申し込みの時に名前や住所を書いてるモンだから・・・
毎年「お祓いしときます」みたいな文書と一緒に、振り込み用紙が送られてくるんだよね。
ありがたいような、ありがたくないような・・・。

今回、円覚寺に足を運んだのは、恒例の夏期講座の案内を見たからだ。
別に檀家じゃなくて、一般の人でも参加費用さえ払えば自由に参加できる。
ちなみに講座は全部で4日間あって・・・
4日券が4,000円で、1日券が1,200円。

私が、この案内を見て行ってみよう、と思ったのは
講師の中に脚本家で作家の「山田太一」の名前を見つけたからだ。

会場となった大方丈は、体育館ほどもある建物だったが
私が着いた頃には、すでに参加者で埋め尽くされて、とても中には入れない。
仕方なくオモテのスピーカーの前に陣取った。

講演は場所柄、大船にあった松竹撮影所の思い出話からはじまった。
山田先生の師匠は映画監督の木下恵介で・・・
師匠の墓が円覚寺にあるりが縁で、講演をすることになったとか。

そういえば、小津安二郎の墓も確か、この円覚寺にある。
と、いうことは私も死んで墓に入れば・・・
小津安二郎や木下恵介とご近所さんになれるな。
死んでから何か教わっても遅いけど。

山田先生も、68歳になったという。
とはいえ、この講演の参加者は場所柄、年輩の人が多いので決して年寄りには見えない。

講演は1時間ちょっと・・・
とくにシナリオ講座というワケではなかったが
さすがに、いろいろ考えさせられる話は多かった。

「お芝居やドラマの使命は、見ている人を救うことにあると思うんです」

救うとは、どういうことだろうか・・・?

答えを与えることも救いにはなるだろうけれど、
万人に共通する答えなんて・・・あろうはずもない。

話の前後で私が感じた山田先生の言う「救う」という言葉の意味は・・・
「認める」ということ。

目の前にいる人や物事を「認める」ことは・・・時として苦しい。
自分の価値観というものを、かたくなに持ち過ぎると・・・
事実を否定したり、ともすれば人を裁くような行動や発言をしてしまいかねない。

そうやって、自分や会社・組織の常識にすべてを当てはまれば・・・
楽には違いないけれどね。

事実を強引にねじ曲げて、
目からウロコが落ちるとは反対に、次から次へとウロコを付けていったら
最後は・・・半漁人になっちゃうな。

自分はわかってるつもり・・・
そんな、つもりになるのはいいけれど・・・
わかっていることを人に伝えるのは本当に難しい。

その難しさを感じはじめると・・・
本当は自分は、まだ何もわかっていないことに、ようやく気づく。

お芝居やドラマの使命が、見ている人を救うことにある・・・としたら
自分の言いたいコト、描きたいテーマなんてモノより先に・・・
人をいたわる気持ちがないと書けないな。

何の仕事でも結局おなじなんだろうけど、ね。


参考資料:「第66回 円覚寺夏期講座」講師=山田太一 演題=見えなくなるもの 見えてくるもの