Episode No.824(20010417):あした来る鬼

「どうしてそんな女の格好するんだ?
 男のクセに女の格好するなんて不自然じゃないか」

「男のクセにどうして警察官を演じたり、思想家を演じたり
 大学教授を演じたり、人殺しを演じるんだ。
 男のままでいいじゃないか?」

「だって、おめぇ・・・そりゃあ職業・・・」

「あたしだって、これが職業」

先日、観てきた芝居のセリフ・・・だ。

芝居のタイトルは『毛皮のマリー』。
作、寺山修司・・・そして主演・演出は美輪明宏

美輪明宏に、こう言われてしまったら・・・返す言葉がない。
マリー=美輪のセリフは、さらにこう続く。

「自然派をきどってる人たちに限って、1袋20円の種をまいたりする。
 自然にさからって、花を咲かせようとするんだ」

『毛皮のマリー』は、男娼マリーが自分の理想通りの子供を育てようとする話。
部屋に蝶を放し、それを子供に一日中追わせて、一歩も外に出さない。
最後には、その男の子に口紅を塗ってしまうという・・・悲しい物語。

寺山修司が美輪明宏のために書き下ろしたモノで・・・初演は1967年。
これまでにも繰り返し何度も上演されているが、美輪自身の演出は今回が初めて。

母と子の愛憎劇は寺山ワールドそのものだが・・・
そこに美輪の世界がミックスされて、得も言われぬ説得力を感じてしまった。

昔、よく寺山修司の映画を観た。
『書を捨てよ、町へ出よう』とか『田園に死す』とか。

正直言って、よくわからなかったけど・・・妙に印象に残っている。
芸術って「意味」を超えて訴えかけてくるものなのかも知れない。

最も「意味」なんてモノは、すべて後からついてくるような気もする。

自分のヒラメキを他人に伝えるために、長い時間をかけて研究し・・・
偶然を必然として証明しようとする学者たち。

なぜ売れたのか、なぜ売れなかったのかを調べ上げ・・・
次に出すと決めているモノを会議に通すため、大義名分を探すマーケッター。

カッとなった一瞬をそのまま爆発させては非公共的であることを充分知っていて・・・
公共的に見て相手が間違っていることを何とか突き止め、弾劾しようとする人。

どんな出来事だって、すべて今につなかっているのだから・・・
後からなら何だって言える。

『毛皮のマリー』のこんなセリフも印象に残ったな。

「歴史なんて、すべてうそ。
 あした来る鬼だけが・・・本当」

そして鬼と面と向かって戦っている姿だけが、本当の自分・・・なんだろうね。


参考資料:「毛皮のマリー」作=寺山修司 演出・美術・音楽・主演=美輪明宏 パルコ劇場