久しぶりに独りで映画館に行った。
昔はよく、こんな名画座みたいなところに
入り浸っていたものだ。
まだ、こんな感じの映画館が残っていることに
懐かしさと嬉しさを感じた。
若松孝二監督『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』
…後味の悪い映画だった。
それは決して出来が悪い、という意味ではなく。
かつて『JFK』を観た時にも感じた、
現実的な「今」を問われているような脅迫的な感覚。
三島事件を映画化したものには、
ハリウッドで作られた緒形拳主演の『MISHIMA』がある。
まったく描かれ方は異なるが
到達点は同じ…割腹自決シーン。
ラストシーンが気になった。
短刀を握りしめたの気合いで叫びで終わったら、
まったく『MISHIMA』と同じになってしまうから、ね。
『11.25自決の日』のラストは意外にも
…事件から5年後だった。
ファーストシーンも意外だった。
映画は共産党の浅沼委員長絞殺事件に始まる。
昭和を代表するすべての事件が、
三島を揺り動かしていたという解釈にはうなずけた。
ハリウッド映画と比べてしまうと、
重厚感のないセットやエキストラの少なさ…。
そして楯の会の制服の生地が
どことなく安っぽく見えるのに、
最初はどうしても制作予算の問題を感じてしまったが、
やがてそれも、
舞台を観ている感覚に溶かし込まれてしまった。
舞台では、
男が女を、若者が年寄りを演じていても気にならない。
伝えたいことさえシッカリしていれば、
その程度のことは邪魔にならないのだ。
また、そうした様式美的な演出があったとしても
三島由紀夫を描くには、かえって適しているのかもしれない。
三島を演じた井浦 新という俳優のことは、まったく知らなかった。
おかげで、先入観を持たずに観ることができたのだが、
いかんせん若すぎる気がしていた。
1974年生まれだというから現在38歳。
しかし、
見た目は学生と比べてもあまり年齢差を感じないくらい若い。
ただ、微妙な目配り。
そして、一言一言を噛みしめて口にする様は、
三島由紀夫の精神をキッチリ演じて見せていたように思う。
今回の映画の切り口においては、
ハリウッド映画のようになまじボディビルで鍛えたり、
胸毛の付け毛をしなくて正解だったと思う。
最期の演説のシーンは…ニュース映像に実に忠実だった。
それだけ私が、
繰り返し繰り返し、
三島の最期の演説の録音を聴いているから。
…次のセリフまでわかっていたよ。
そうなると、これはもう
思想的な話でも、政治的な話でも何でもなく…、
単に三島由紀夫というか三島事件のマニアということだな。
『MISHIMA』では描かれなかった
三島夫人が登場したのは興味深かった。
もう少し夫婦間の様子が詳しく描かれていると、
ラストの重みも増したように思うが…
ただ、今回は学生との間の話が核だったから仕方なしか。
学生長、森田必勝役の満島真之介は、
かつてのオウム信者をも思わせる
純粋という狂気をよく演じていたと思う。
ただ、本当の森田必勝がどんな人だったのかわからない。
もちろん、三島由紀夫だって…わからないんだけど、ね。