Episode No.1100(20020305):余計なひと言

愛犬の食事代にも困っている無名の役者は、
その日もオーディションに向かった。

どんな端役でもいいから
少しでも金になる役者としての仕事をしたかった。

が・・・結果は、例によって不採用。

でも、せっかくここまで
なけなしの交通費をつかって来たんだから・・・

その無名の男はドアの取っ手を握ったところで
もう一度振り返り・・・
面接のプロデューサーに向かって言った。

「全然関係ない話なんだけど・・・
 オリジナルのシナリオがあるんだけど」

「どんな話だ?」

「ボクシングの話なんだ」

その、ひと言が・・・
映画『ロッキー』のプロジェクトのはじまりだった。

男の名前は、もちろんシルベスター・スタローン

『ロッキー』第1作は・・・
1976年のアカデミー賞で最優秀作品賞に輝き、
その後、シリーズは第5作まで作られて、絶大な人気を誇る。
日本の小説で言えば・・・
芥川賞と直木賞を同時受賞したような
いや、それ以上の成功作は・・・こうして生まれた。

余計なことは言わない方が賢明・・・
いざという時、こういう考えに走る場合は少なくない。

だけど・・・
夢をつかんだ人たち成功例をみると、
それはまったく逆であることに気づかされる。

余計か、余計でないかは相手が判断すること。
それを自分が勝手に決めてしまうのは・・・
利口そうに見えて、ただ臆病なだけ。
自分に勇気がないことを正当化しているに過ぎない。

本当にせっぱつまれば・・・
もう自分をさらけ出すしかない。
そこに気取りや、余裕のあるフリが見えているうちは
誰も手をさしのべてはくれないものだろう。

第1作公開後、四半世紀以上がたった今・・・
スタローンが『ロッキー』のシナリオを
わずか3日で完成させたという話は
もはや伝説となっているが・・・
スタローン本人のインタビューによると
それは決して完成ではなかった。

「3日で書いたシナリオのうち
 本編に残った部分は、せいぜい1割」

チャンスをつかむためには・・・
とりあえず使えそうなアイデアが1割、
そして何よりも勇気をもって語りかけること、かな。


参考資料:「ロッキー」製作25周年記念DVDコレクターズBOX