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Episode No.022

「貧乏? 暖をとろうとして、車のラジエターに抱きつくことが貧乏ってことさ」

ニューヨークの一角、ヘルズキッチンと呼ばれる街で生まれた男は、そう呟いた。
父親はイタリア移民の美容師。母親は名もないダンサー。

「おまえは脳たりんで生まれてきたんだから、せめて体だけは作っておけ」
それが父親の教えだった。

24歳になった彼は、父の教え通り、体格だけはひと一倍よくなっていたが、それを活かすことのできる職業にはありついていなかった。
ようやくありついた"体をはる仕事"は、ポルノ映画の男優という始末。

1975年3月15日の夜。30歳を迎えるこの年、たった160ドルしか残っていなかった銀行の預金を全額引き出して買い求めたチケットを手に、彼はスタジアムへ向かった。

ヘビー級チャンピオン、モハメッド・アリ対チャック・ウェップナーの一戦は、"王者アリのスパーリング"と言われたほど、誰しもがアリの余裕の勝利を確信していた。ウェップナーがリングに立っていられるのは、せいぜい3ラウンドが限界だろうと・・・。

結果は王者アリの判定勝ちに終わった。
しかし、大方の予想に反して15ラウンドを終えても、しっかりとリングに立っていたウェップナーの姿に観客は心を動かされた。

試合を目の当たりにした文無し男も例外ではなかった。
彼は、この晩からわずか3日半で1本のシナリオを書き上げる。

題名は・・・もうお気づきだろう。そう!『ロッキー』だ。

シナリオを書いただけでなく、主演の座をも射止め、その後アメリカン・ドリームを実現した男、
シルベスター・スタローンは言う。

「勝利がドラマなんじゃない。勇気こそドラマなんだ」


参考文献:「炎の男スタローン」ジェフ・ロビン=著 高沢明良=訳 講談社X文庫=刊

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