Episode No.1030(20011213):両国橋の思い出

首都高速を銀座から埼玉方面に向けて
隅田川と平行して走ると、いくつもの橋が見える。

そのうちのひとつ、両国橋が完成したのは・・・
今から342年前の今日、1659=万治2年12月13日のこと。

もちろん現在かかっている鉄橋は、
その後、1932年・・・昭和に入ってから造られたものだ。

武蔵の国と下総の国、その両国にまがることから
両国橋と名付けられた。

本所、深川界隈の再開発の上で必要だったこともあるが・・・
1657年の通称・振り袖火事と呼ばれる江戸の大火で
川に橋がないばかりに逃げ場を失った人たちが多数焼死したというのが
橋を造るきっかけになっているという。

橋ぎわには番小屋が設置され、
たもとには火除地として広い空き地が設けられたが・・・

やがて、この空き地には見せ物小屋が乱立して
浅草と並ぶ賑わいを見せた。

今村昌平監督の映画『ええじゃないか』は
この見せ物小屋界隈を舞台にしていて、
実際にあったものよりは、かなり小降りになったが
木造の両国橋を何億もかけて再現したことが話題を呼んだ。

もう20年くらい前の映画だが・・・
当時、高校生だった私は、
毎日のように学校をサボってはエキストラとして
葛飾と埼玉の境にある水元公園の未開発地に建てられたオープンセットへ
その両国橋を渡って通ったものだ。

映画の中に、見せ物小屋へ象やラクダを運ぶシーンがある。
セットの両国橋に象を歩かせるために橋を補強して
象が歩くところだけ厚いベニヤ板が打たれているのが
画面をよく見るとわかる。

映画が公開されてからしばらくして・・・
懐かしくてその場所に行ったが
すでに両国橋はなく、川から柱だけが名残をのぞかせていた。

鉄橋の両国橋は・・・
象どころか、大型トレーラーが渋滞で何台止まっていても
ビクともしないが・・・

高い高速の渋滞から、その様子を眺めていると
火除地どころか、建物の隙間もない東京の街が何だか怖くも思える。

せめて・・・
生活には何の役にも立たない見せ物小屋を覗く心の余裕は
必要かも、ね。


参考資料:「歴史の意外なネタ366日」中江克己=著 PHP文庫=刊