Episode No.1014(20011124):成功は想像できないところにある

その記念すべきテレビ放映の第一話に
車が走りまわるシーンや・・・
タイミングよく犬が吠えるシーンがない理由は
番組が作られた経緯を知ると合点がいく。

もともとは、テレビドラマ用ではなく舞台用に書かれた物語なのだ。
したがって、舞台上で描写できることしか台本には書けなかったワケ。

舞台劇からTVムービーへ脚色し直す際の大きな変更は・・・
物語の設定をニューヨークからロサンゼルスに変えただけ。
それも、その方が制作費が安く上がるから、というだけの理由。

物語を書いたのは・・・
リチャード・レビンソンとウィリアム・リンクという作家コンビ。
2人は中学で出逢って以来、脚本を共作し続けていたというから・・・
まるでハリウッド版藤子不二雄のような感じだ。

惜しくもリチャード・レビンソンは、
1987年3月に52歳の若さで亡くなっているが
2人の青春は悔いの残るものではない。

舞台のメッカ、ニューヨークと・・・
テレビのメッカ、ロサンゼルスを股に掛けながら夢を追った2人の青年。

生活のために社会派テレビドラマを手がけながら・・・
自分たちの理想のスタイルを追い求めて作りだした舞台劇が、その原型となった。

原型とは言え・・・
実際に舞台で人気を博したのは、彼らが作り上げた主人公ではなく、その脇役。

たまたま企画を探していたテレビ局に・・・
「いっそ、この脇役を主人公に仕立て上げた物語をブツけてみよう」
という33歳の柔軟な発想が、すべての始まりだった。

舞台でその役を演じた老齢の役者はハマリ役だったらしいが
テレビの企画が持ち上がる頃には、もう故人。

そこで候補には「ホワイト・クリスマス」で知られる
名優、ビング・クロスビーの名も上がったが・・・返事はNO。
最もクロスビーがYESと言っていたら・・・
シリーズは10年と続けることは無理だったろう。

最後に残ったのは・・・40歳の"まだ若すぎる"男だった。

しかし、この男の役作りは完璧で・・・
2人の書いた脚本は、その魅力を何倍にも増した。
なんせ、この男・・・
脚本を読んで、衣装まですべて自前でそろえたほどの徹底ぶりだ。

故人となったリチャード・レビンソンは、死の3年ほど前・・・
こんなことを知人につぶやいている。

「もし我々が何かにつけて思い出される存在になるとしたら
 私たちの墓石には『刑事コロンボ』と刻まれているかもしれない」


参考資料:「刑事コロンボ/レインコートの中のすべて」マーク・ダヴィッドジアク=著 岩井田雅行/あずまゆか=訳 角川書店=刊