Episode No.599(20000728):太郎の幻 このところ命日の話ばかりで申し訳ないけれど・・・ 今日、7月28日は江戸川乱歩の命日だ。 江戸川乱歩=本名、平井太郎は、今からちょうど35年前の1965年に70歳で亡くなっている。 早稲田大学政治経済学部を卒業後、大阪の貿易会社に勤めるが長続きせず、3ヶ月後には造船所に転職。 それも3年と続かず、上京して本郷に弟と2人で古本屋を開業する。 上京した年に結婚。 同時に執筆活動をはじめ・・・4年後の1923年=大正12年に『二銭銅貨』でデビュー。 いきなり探偵小説作家としての地位を確立してしまう・・・この時、29歳。 ペンネームの元になっているエドガー・アラン・ポーや『ホームズ』で知られるコナン・ドイルなど・・・ 数多くの探偵小説を愛読して夢を馳せた青年は、夢を提供する側にまわることができた。 いい歳して、非現実的な夢ばかりみていた男は、生活者としてきっとひ弱に見えたに違いない。 「ヤツは結局どこでも使いものにならずに・・・とうとう古本屋になったみたいだね」 そんな風に陰口をたたいていた、かつての同僚は・・・ あの役立たずの平井が江戸川乱歩だと知って、さぞかし驚いたコトだろう。 「そういえば奴は、いつも普通の人と違っていたよ」なんて言い方に変わって・・・ やがては「乱歩、知ってるだろ? オレ昔、奴の上司だったんだぜ」なんて言いふらすようになったろうね。 乱歩が小説家になったのは、何もかつての同僚を見返すためじゃなくて・・・ 自分が本当に面白いと思うモノをカタチにしてみたいという気持ちが強かったからだろう。 どうせ書いたんだったら、出版社に見せてみよう・・・ それが編集者の目にとまって本になり・・・時代にマッチして売れた。 そういう結果を出せたから、どうにか進むべき道も決めるコトができた。 乱歩が本当にグータラなだけで・・・ 書くモノはみんな中途半端で完結させるコトも出来ず・・・人に見せられるカタチすら作り上げられないようだったら。 あるいは書き上げただけで自己満足してしまって、作品を育てるコトをせず・・・また漠然と自己満足のために次の内容をボーッと考えているだけだったとしたら。 古本屋の店番で生涯を終えたに違いない。 そうしたら、こういう戒名にはならなかっただろうね。 智勝院幻城乱歩居士。 考えるだけなら誰にもできる。 それを他人の目からもわかるカタチにして・・・ようやくスタートラインに並べる。 走る力を試されるのは・・・その後だ。
参考資料:「今日は何の日」PHP研究所=刊 ほか
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