Episode No.565(20000619):できそうもないから・・・やる! 自分の才能や感性だけで仕事ができたらいいな・・・と思わない人はいないだろう。 私も強くそう思う時がある。 「でも、それはすごく孤独な作業でね。 そういう感覚でOKは出せるけれども・・・それは、しょせん"おたくオーケー"。 好き嫌いを行っているだけの話で・・・ちっとも対話になっていない。 半分以上、自分とは感覚の違う人たちと仕事をして、みんなが納得のいくOKを出す。 それは、覚悟のいることだけど・・・その覚悟を決めて、おびえながらも頑張るのが私の仕事」 そう語るのは、映画監督の大林宣彦・・・私の好きな監督のひとりだ。 実は先週末にお芝居に行って・・・そこで第三舞台の鴻上尚史さんと言葉を交わす機会があった。 ・・・と言うほどたいそうなモンじゃないんだけれど、たまたまトイレに並んでいたら・・・。 「トイレ、お待ちなんですよねぇ?」ってニッコリと話しかけられて「はい」って答えただけの話。 たまたま座席も隣だっし、何か親しみを感じさせてくれる表情だったので、よほど何か話しかけてみようかとも思ったけれど・・・第三舞台は観ていないし、演劇の話などできるほどの知識は、もちろんない。 で、そんな私が何で鴻上さんの名前を知っていたんだろう・・・と思い返してみたら、ウチに1本のビデオがあった。 『映画の旅人〜大林宣彦の世界』・・・'93年に公開された映画『水の旅人』のメイキング・ビデオ。 このビデオの監督兼インタビュアーが鴻上さんだった。 そこで久しぶりに、このビデオを見返したら・・・大林監督の語る言葉にあたらめてウーム。 少々、説明が長くなったが7年前に見た時には取り立てて心にとめなかったセリフが・・・。 今、染みてくるのは何故だろう? 「仕事ってつねに物理的なモノでしょ? スケジュールに合わせて、どんどん予定をこなしていかなければならない。 処理能力が問われてくると、ついには単なる処理集団になってくる。 そうなった瞬間に仕事はダメになるんですよ」 ここで大林監督が言っている「仕事」とは、もちろん「映画」のコトなんだけれど・・・。 どんな仕事でも、そういうコトってあるな、と。 ビデオの最後の方で鴻上さんが、監督にこんな言葉をもらした。 「現場を見せていただいて、自分が監督ならどうしただろうと思った時に・・・。 1度や2度は、もうダメだ、できないって言ってしまいそうな場面はありましたね」 優しそうな目をサングラスの奥で光らせながら・・・。 大きな指輪をはめた太い指にタバコをはさんだ大林監督は、こう静かに答える。 「そりゃあ思うことはあるよ。でも思うだけで決して人に聞こえるように言っちゃダメ。 一度言ったらクセになる・・・坂を転げ落ちるようにね。 妥協グセ・・・で、もう、この仕事をやる資格を失っちゃう。 (世の中に)ないものを作るんだからね。なくて当たり前。 その、できそうもないことをみんなでやり遂げる。 物理的に見ればできそうもないコトが、全身でぶつかっていくと何故かできてしまう。 だから仕事はおもしろい」
参考資料:「映画の旅人〜大林宣彦の世界 鴻上尚史が観た 水の旅人」ポニーキャニオン=発売元
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