Episode No.317(990901):地獄で夢をつかんだ男
今日は
「防災の日」。
ご承知のとおり、9月1日は関東大震災が起こった日。
大正12年と言うから、今から76年前のことである。
奥尻、神戸、そしてトルコ・・・と、最近は大きな地震の被害を伝えるニュースが多いので、とても人ごとには思えない。
関東大震災の発生時刻は、午前11時58分。
ちょうど、昼飯時だったこともあり、火を使っていたところが多かったのが、被害を拡大させた要因。
現在のようにマイコン制御のガスレンジなどない時代。
横倒しになった七輪からこぼれだした真っ赤な炭は、簡単には消えない。
結果、東京では全戸数の7割、横浜では全戸数の6割が焼失し、死者は約10万人以上にものぼった。
この大混乱の中、東京・本郷にあった自動車修理工場での話。
幸い社屋がいきなり火災に遭うことはなかったものの、周辺からは次々と火の手が上がっている。
ガレージには、客から預かった高価な自動車が何台も並んでいる。
一刻も早く、その自動車を安全な場所に移さなければならない。
「車を操作できる者は、直ちに動かせ!」
大将の声がかかった。
入社後、1年半。
まだ、ほんの小僧扱いだった彼も、この時とばかり、運転席に座りハンドルを握ると、アクセルをグッと踏み込んだ。
そして、人々が泣き叫ぶ声をよそに、小僧は喜んで車を走らせた。
小僧の名は、
本田宗一郎。
これが、本田宗一郎が生まれて初めて自動車を運転した瞬間だった。
子供の時からの憧れである自動車を、ついに自ら動かした・・・!
その感動に胸躍らせた宗一郎にとっては、震災の地獄も、きっと天国にいる気分だったに違いない。
どんな幸福にも落とし穴があるように。
どんな不幸にも喜びのタネは隠されている・・・という話。