Episode No.2582(20061130):
無策の策
本当に忙しくなると
準備がおろそかになってしまう。
それが失敗の要因・・・かと言えば、
実は決してそうではないように思う。
何事につけ、
失敗の要因となるのは
準備不足ではなく、心得不足。
言い方をかえれば、
準備に頼ってばかりいるから
準備ができなかったことで自信を亡くす。
・・・その時点で失敗につながるように思う。
松下幸之助が書いたものに、
こんな一説がある。
「善かれと思って、はからったことが、
善かれと思ったようにはならなくて、
思いもかけぬ反対の結果を生み出すことが、
しばしばある。
善意の策も、策はしょせん策に過ぎない。
たとえ善意に基づく策であっても、
それが策を弄し、策に堕する限りは、
悪意の策と同じく
また決して好ましい姿とはいえないだろう。
つまり、何ごとにおいても策なしというのが
いちばんいいのである」
本当に面白い芸人は
放送作家が書いた台本通りに演じているわけではない。
台本はあくまでも段取りで、
客の反応を見て、つかんだものを
どんどん膨らませていく。
・・・つまり、アドリブだ。
アドリブがきかない芸人は、
たとえその話が面白くても・・・
それは芸人が面白かったのではなく、
台本が面白かっただけに過ぎないだろう。
松下幸之助の話は、こう続く。
「無策の策といってしまえば平凡でだけれども、
策なしということの真意を正しく体得して、
はからいを越え、思いを越えて、
それを自然の姿でふるまいにあらわすには、
それだけのいわば
悟りと修練がいるのではないだろうか」
準備が必要ない・・・というわけではない。
台本なしで人を惹きつけるのは、
それ以上に修練が必要だということだ。
そして体得は・・・
いかに長時間、机にかじりついていても
・・・できないものだ。
参考文献「道をひらく」松下幸之助=著 PHP=刊