Episode No.1327(20021125):大失敗・・・幸運にも!

演題は「MALDI〜その始まりから現在まで」。

"MALDI"とは、
マトリックス支援レーザ脱離イオン化法のことで・・・
と言っても、化学の知識がない私には皆目わからない。

そんな、わけのわからない講演を
聞きたいと思ったのは・・・
講師が、あの田中耕一さんだったからだ。

ノーベル化学賞の受賞で
一躍"時の人"となった田中さんについては
今さら詳しい説明もいらないだろう。

直に見る田中さんは・・・やっぱり田中さんだった。

見るからに大人しそうな小柄の中年男。
そんな地味な、どこにでもむいそうな人が
世界的権威の賞をとったというんだから
注目の的になっても、
不況日本の希望の星にもなっても無理はない。

ノーベル賞をとるような人だから
さぞかし専門分野に長けているのだろう、
と思うと・・・そうでもないらしい。

講演の内容は受賞対象となった分析技術について。
専門的なことはわからないけど・・・
理解できたのは、
もともとその分野では素人だったから、
普通はやり尽くしたと思ってやらない研究をしてた。
と、いうことと・・・
通常ではやらない失敗をやった。
のが、新しい発見につながったということ。

英語だらけのパワーポイントの画面には
ところどころに、その時の研究結果として
「大失敗・・・幸運にも!」と書かれていた。

講演の最後に田中さんは
「どうして私だけが賞をもらうことになったのか
 不思議でたまりません。
 もともと私を含め5人でスタートした研究。
 それから、この成果を世界に紹介してくれた人たち。
 誰ひとり欠けても、私は今、ここにいなかった」
と、切々と語り・・・
主だった関係者の名前を画面に映し出した。

そりゃあ、あなたがチームの中で
一番、おっちょこちょいで
普通はやらないことをしたからですよ。
・・・とは、誰も突っ込まなかったが
たぶん・・・
そう、突っ込んでも、この人は怒らないだろうな。

ちなみに12月に予定されている
スウェーデンでの授賞式には
そのチーム5人が全員で出席できることになったと
笑顔で話していた。


参考資料:「全科展in東京2002 特別講演会」主催=日本科学機器団体連合会、日本工業新聞社