棟梁の名前は、熊・・・としておこう。
熊は腕のいい職人気質の男で、しかも親分肌。
いつも大勢の若い大工たちに取り囲まれていたが、名声のわりに儲かる仕事は少なかった。
そんな熊の元に、ある日、大工志望の若い男がやってきた。
名前を志郎としておこう。
志郎は、これまで熊の元で働いた若い大工たちとは、ちょっと違っていた。
若い大工たちと同様、情熱家ではあったが、理論派で合理主義。
怒鳴りつけて言うことを聞くような男ではない。
ある意味では、熊以上に頑固者である志郎に、熊は手をやきもしたが、反面、非常に頼りにもしていた。
やがて一本立ちをした志郎は、その徹底的な合理主義と新しい技術で、これまでは何百人もの大工がいなければ成し得なかったような大仕事を次々とやってのけた。
それは古い体質の職人たちからは、決して良く思われなかったが、彼は自分の信ずる道をつき進んだ。
こうして巨万の富を得た志郎は、誰からも頼まれるわけではなく、自らの計画で自分の理想とする建築物を建てることにした。
その建築現場には、宮大工もいれば、2×4建築法も用いられた。
しかも土地代から材料費、職人たちへの支払いに至るまで、すべて自分のポケットマネー。
こうして完成したのが「STAR WARS エピソード1」だ。
志郎とは、もちろんジョージ・ルーカスのこと。
熊は「ゴッドファーザー」で知られるフランシス・コッポラだ。
ハリウッドを捨てて、自らの理想に邁進したルーカスのサクセス・ストーリーを聞くと、貿易業で成功した資金をつぎ込んで、夢にまでみたトロイの遺跡を発見したシュリーマンを思い出す。
この間、CBSドキュメントで、ルーカスのレポートをやっていたが、親友としてマイクの前に立ったスティーブン・スピルバーグが「ボクが今回のスター・ウォーズと同じものを撮ろうと思ったら、おそらく4倍くらいの費用はかかるだろう」と言っていた。
スピルバーグの監督料が高い・・・というわけではない。
ルーカスには、ILMというSFX専門会社をはじめ、無数の関連会社がある。
従業員数は約2,000人!
そういうスタッフを自由に使えるルーカスだからこそ、あれだけ手の込んだモノを135億円で作れる・・・というのだ。
ハリウッドが外注としてそれらを使ったら4倍・・・540億円になるというのがスピルバーグの試算。
これまで最高の制作費をかけたと言われる「タイタニック」の350億円をはるかにしのぐことになる。
ここまでケタはずれなことは、並の人間にはなかなかできないが・・・。
やはり、自分が本当にやりたいことは、自分の金で誰にも文句を言わせずに、やるべき・・・だな。
他人の金で自分の夢を実現しようなんて・・・ちょいとムシが良すぎるし、後でシッペ返しが来そうで怖い・・・な。