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Episode No.169(990312):大人の証

自分の考えを持つことが大切だ。
ことに、これからはサラリーマンといえども個人の実力が問われる時代。
寄らば大樹の陰でいられる世の中ではなくなった。

だが、勘違いてはいけないのは決して"一人よがり"だったり"自分だけに都合のいい"考えを持たないことだ。

マリー・アントワネットの夫、フランスのルイ16世は、温和でやさしい性格だったが、狩りや錠前作りといった趣味だけに熱中する浮世離れした日々を過ごしていた。

最期のロシア皇帝、ニコライ2世も落ち着いていて教養のある人物だったが、ルイ16世と同様、迫りくる時代の足音を感じとることができず、これから先も今までと同じ世の中が続くものと思いこんでいた。

2人は、このような境遇に生まれなければ、革命によって処刑されることはなかったろう。

しかし、現実はそうではない。
現実に置かれた自分の立場を認識できなかったことが、2人の命を縮めたのだ。

同じ最期の将軍でも徳川慶喜は違った。
時代の波を的確に読んだ慶喜は、大政奉還の後、大正2年に77歳で亡くなるまで長い余生を楽しむことができた。

今、自分が置かれている立場を認識し、その立場に課せられた使命を遂行できることが、大人である証だろう。
つまり、ルイ16世もニコライ2世も年齢はともかく、精神的には子供のまま生涯を閉じたと言える。

大人という言葉には、何となく「ズルさ」が臭うが、それはやはり"自分だけに都合のいい"考え方だけをしている大人ぶった子供のことで、年さえとれば大人になれるというのは単なる錯覚だ。
肉体年齢が上がると誰もかれも見た目は大人に見えるが、精神年齢は必ずしも一致していない。

同じように、就職すれば社会人に。結婚すれば夫や妻に。子供ができれば父親や母親に・・・。
見た目はみんなそうなるけれど、はたして中味がともなっているかどうかは本人の自覚と努力次第。

いいかげんなことをしていてもまわりは案外気づかないものサ・・・なんてタカをくくっていると、後で必ず大きなシッペ返しがくる。
それは、まわりにいる人たちが、気づいてもあえて言わないだけか、類は友を呼ぶ・・で、その程度のことにも気づかない大したことのない人たちしかいないからだろう。


参考資料:「徳川慶喜をめぐる幕末百人」世界文化社=刊 ほか

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