Episode No.3915(20110311)
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Anyone can die once. その(5) そして命日

先頃発生して大きな犠牲者を出した
ニュージーランドの大震災。

生存者の救出打ち切りという残念なニュースが流れる中…
九死に一生を得た生存者の
身体だけでなく心のケアの必要性について
報道されているのを目にした。

サバイバーズ・ギルト(Survivor's guilt)は…
戦争や災害、事故、事件、虐待などに遭いながら
奇跡の生還を遂げた人が
周りの人々が亡くなったのに自分が助かったことに対して、
しばしば感じる罪悪感のこと。
「サバイバー」(survivor)は「生き残り・生存者・遺族」を、
「ギルト」(guilt)は「罪悪感」を意味する英語。
by wikipedia

一緒に会社を立ち上げた盟友が亡くなったのは、
7年前の今日…3月11日の夜9時過ぎ頃だった。

高校時代からずいぶん長いこと奴とは付き合ってきたが、
奴の手を握るなんて7年前のあの日だけだったな。

そして、私は生まれて初めて
人が死んでゆくを目の当たりにした。

それは生き物が物体になる瞬間だった。

今思えば…いや今もなお、私自身
サバイバーズ・ギルトに近い思いを感じることがある。

同じ年で同じ時期に健康診断を受け、
平日は家族より長い時間を一緒に過ごしていた仲間が、
突然がんで死んだ。

奴が息を引き取った時、
自分は生き残ってしまったような気がしてならなかった。

奴が運悪く死んだのではなく、
自分がたまたま運がよかったのだと感じた。

ポッカリ空いてしまった心の穴を埋めるべく、
それまで以上に家族と一緒に過ごし、
旅行にも行くようになった。

…が、そうして幸せに過ごしていることに、
時折、罪悪感を持つことがある。

今の自分の幸福が、
奴の犠牲の元に成り立っているように思ってしまうのだ。

けれども、そんな時、私は思い出すのは奴の言葉だ。

あれは奴が入院した後、
一時帰宅で自宅に帰った時に合わせて、
奴の自宅まで打ち合わせに行った時のことだ。

私は仕事の状況を話し、奴は治療の状況を話した。

そして、奴はふと言った。
「俺とおまえが逆でなくてよかった」

奴が言いたかったことは、
中心となって仕事をまわしている私が、
もし入院するようなことになれば、
会社が立ちゆかなくなってしまうから、
それに比べたら、まだマシ…だということだ。

だけど考えてみてよ。

自分の命は桜の咲く頃まで持たないと
医者に宣言された男が、
それでもなお2人で作った会社を思い、
親友を思って、かすれた声でそう言ったんだ。

そんな思いを裏切ることは決してできない

だから、私はぜいぜいしぶとく生きて、
あの世に土産話をたくさん抱えていかないと、な。

今の自分を形成しているものの中には、
こうした死んでしまった友達が遺してくれたものや、
もちろん肉親、祖先が遺してくれたものが息づいてる。

つまり、自分の命は自分だけのものではない。
バトンを渡されたリレーの走者のようなもの。

走ることに一生懸命になって、ちょっと疲れたら、
こうして手元のバトンを見直し、
しっかりと握り直して、再び走り出す。

手渡されたバトンが多いほど、
そりゃあ辛いことも多いけれど…
手渡されたバトンが多ければ多いほど、
今の自分の人生には意味があるんじゃないか、と思う。

end...

このシリーズのバックナンバー
その(1) 春の別れ
その(2) 生きる意味
その(3) この世のいふ処
その(4) あの世のいふ処

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