Episode No.2821(20070905)
或る少年の落とし前

草野球チームに所属する
その少年のあだ名は「監督」。

さぞかしチームのみんなに慕われていそうだが
・・・実はそうではない。

何かというと・・・
人のプレーに口うるさく文句をつける。

そのくせ自分のプレーはというと
・・・とても誉められたものではない。

確かに野球に関する知識
チームの誰よりもあったかもしれない。

しかし・・・
敵の打った玉をまともに捕ることもできなければ、
バッターボックスに立って
点を取ることもできない彼は、
正直、チームの厄介者だ。

かといって仲間はずれにしようものなら
親や先生たちが黙っていないので、
とりあえずベンチには入れておく。

そこでついたあだ名が「監督」なのだ。

近所の子供達が集まって
野球ごっこをしているうちは、
それでもまだよかった。

ところが、これが
リトルリーグとなると、そうはいかなくなる。

そこには本物の「監督」がいる。

少年は、野球好きだが野球がヘタな子として
ベンチの片隅で、
黙って友達の活躍を見守るしかなかった。

それから何年かが経ち・・・
周囲の友達に
野球をするより野球を見るのが専門の連中が増えると
「監督」は、また息を吹き返した。
解説は得意中の得意だ。

しばらくは、それでアイデンティティを慰めたが、
高校3年の夏のある日・・・
見るとも成しにつけたテレビ。

高校野球を見てハッとした。

かつて自分が「監督」として
罵声をあびせていた友達が
甲子園の土にまみれていたのだ。

そして気づかされた。

自分は単に自分が居心地のいい場所
求めていただけだと。

テレビに写っていた友達は
確実に違う頑張り方を貫いていた。

自分が立てる場所を自分で作っていたのだ。

そろそろ志望校を決めなければならない。
「監督」は・・・
少し上のランクの大学を目指すことに決めた。
・・・今のままでは
絶対に無理な受験校だった。

・・・内心小馬鹿にしていたような奴には
・・・早いところガツンとやらた方がいいんだよ。