Episode No.1165(20020520):大きな男

若手映画監督は、次回作のキャスティングに迷っていた。

「主演は、ぜひともS・マックイーンに演ってもらいたい」

ダメもとでエージェントに自作のシナリオを送ってみた。
その監督は若手とはいえ大ヒット映画を世に送り出しただかり。
やがて、エージェントから返事があった。

「ご本人が、ぜひお会いしたいと言ってます」

若手監督は緊張を押さえながら
マックイーンの自宅に近い指定されたバーに向かった。

決して品のいいバーではなかった。
地元の荒くれ者たちが酔った勢いで、つかみ合いをしている。
その間に割って入っていたのが・・・
あの大スター、S・マックイーンだった。

「ボクが止めなければ
 マックイーンは完全に殴り合いをしていたね」

ワインをコップ半分も飲めば
普段ならヘロヘロになってしまうゲコの若手監督は
マックイーンにに付き合って、ビールを3杯も飲んだ。

「ぜひ、出演をお願いします」

「残念だが・・・できない」

「何故です?」

シナリオのクライマックスには、
主人公が家族を振り返って涙を流すシーンがあった。

「S・マックイーンは、スクリーンで涙を流さないし
 俺は、そういう演技をする自信がないんだ」

「じゃあ、そのシーンはカットしても構いませんから・・・」

マックイーンは14敗目のビールを口から話すと静かに言った。

「それはダメだ。
 何故なら、俺はそのシーンに一番感動したんだ。
 この映画の成功のために・・・俺はこの映画には出ない」

当初、主人公を軍人に設定していた若手監督の次回作は
最終的に主人公をどこにでもいる一般市民に設定し直して無事完成。

マックイーンの言葉通り・・・
クライマックスでは世界中が涙した。

若手監督の名前は・・・スティーブン・スピルバーグ

スピルバークにとって・・・
それまでアクション派スターだとばかり思っていたマックイーンの印象は
感性豊かな大スターとして、大きく塗り替えられた。

それは・・・
スピルバーグにとっても『未知との遭遇』だった。


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      ソニー・ピクチャーズ・エンターテイメント=発売