Episode No.1162(20020516):夢を売る商売?

人間って・・・
自分が信じたいことに騙されてしまうもんなんだな。

嘘でもいいから信じたいことが
この世の中には多すぎる。

だから飽きずに生きていられるんだろうけれど、ね。

技術や製品を通して
他人に夢を与えることができれば・・・実業家。
作品によってなら・・・作家。

夢を裏切ることになれば・・・詐欺師。
しかし・・・
最後まで夢をみさせていることができたら
詐欺師も実業家や作家の仲間入りができるかも知れない。

映画『俺たちに明日はない』で知られる2人の悪党、
ボニー・パーカーとクライド・バーロウは実在の人物だ。

映画で最も印象的なラストシーンとなった事件が起きたのは
今から、66年前の1934年5月23日。
ちょうど一週間後が彼らの命日だ。

2人は待ち伏せしていた警官たちの発砲をあびて絶命した。
ボニーの体からは23発、
クライドからは25発の弾丸が摘出された。

2人が乗っていた灰色のフォード八気筒も
当然、蜂の巣になったが・・・
繰り返し新聞紙面に紹介されたこの車は
その後、全米で最も有名な車になった。

そこに目をつけた男たちがいる。
同じ灰色のフォード八気筒に自分で銃弾をあびせて
「ボニーとクライドの死の車」として各地でイベントを催したのだ。

当時、少なくとも全米には5台の
「ボニーとクライドの死の車」があったらしい。

事件から時間が経つと、
そのチンケなイベントもナリをひそめたが・・・
映画の公開と共に、また人気のイベントとなった。

1970年代後半・・・。
本物の「ボニーとクライドの死の車」は
少なくとも100万ドルの価値があると言われ
偽物でも、それに近い値段で売買されていた。

「ボニーとクライドの死の車」のおかげで
非現実的な夢をみた人間は数多く・・・
莫大な金をせしめた者も少なくない。

けれど・・・
犯罪者、ボニー・パーカーとクライド・バーロウが
生涯を通じて盗み出した金の総額は
・・・たった2万ドルだったという。

犯罪者だけは・・・どうにもワリに合わない、ね。


参考資料:「詐欺とペテンの大百科」カール・シファキナス=著 鶴田文=訳 青土社=刊