M「う〜ん」
K「そこの御人、ショーウインドウの前で何を悩んでおいでかな?」
M「いやぁ、この真珠が・・・」
K「みごとなモンじゃろ? この輝き、そしてカタチのいいこと」
M「値段もいいんでねぇ」
K「そりゃあんた、こいつを作るのには、並々ならぬ苦労があったんじゃ、当然これくらいは・・・おや? なんじゃこの値段は、まるで国家予算ではないか?!」
M「国家予算は大げさだけど、こいつを買ったらボーナスがいっぺんでふっとんじまう」
K「あんた、この真珠を買える財産をお持ちか? これはお見それした」
M「財産って言えるほどのモンじゃないけど、まぁ人並みには」
K「豊かな世の中になったもんじゃのう」
M「あなた、誰です?」
K「御木本幸吉と申す」
M「ミキモト・・・じゃあ真珠王と言われた?!」
K「はは、この真珠の養殖法は、いかにもこの私があみだしたもの」
M「厄介なもの作ってくれたよなぁ」
K「何を申すか! 真円真珠の養殖に成功したからこそ、庶民の手の届く価格で買えるのですぞ」
M「そりゃまあ、そうかもしれないけれど、あきらめがつかない値段になったってのは厄介です。いえね、ウチも結婚10年目でカミさんが真珠をほしがってるんで・・・」
K「買ってやりなさいよ」
M「でも息子はパソコンをほしがってる」
K「パソコン? なんです、そりゃ?」
M「まぁ電子計算機と言うか・・・」
K「おお、尊敬するあの方の分野ですな」
M「あの方?」
K「あの方とお会いしたのは忘れもしない1927年2月25日。自分にも成し得なかった真珠の養殖を成功させた私をそれはそれは歓待してくだすった」
M「・・・・」
K「尊敬する人に誉められたのは実に名誉なことだったが、あなたが発明界の月なら、私など数ある星のひとつです・・・と言ったのが昨日のようだ」
M「・・・そんなに嬉しかったんですか?」
K「当たり前じゃ。あの人に会えたことは、真珠の養殖に成功したのと同じくらい、私の人生にとって記念すべきことじゃ」
M「誰です? あの人って」
K「あなたも知っておるじゃろう? トーマス・アルバ・エジソン」
M「へぇ〜。・・・よし、決めた今度のボーナスは家族で思い出に残る旅行でもしよう!」
K「では、ミキモト真珠島など、どうかね?」
M「いいや、真珠もパソコンも売ってないところへ」
■ボーナスの使い道に悩む男(この不景気ではボーナスがもらえるだけ贅沢?)
■御木本幸吉 1858-1954 享年96歳
(世界で初めて真珠の養殖に成功したのは1893年7月11日、35歳の時。その後、世界の真珠の6割を占めて真珠王と呼ばれる)