Fictional Talk No.029(990321)
架空対談 漂流とは
M「不思議なもので、たまたま、あの年の黒潮は曲がっておったんだ。普通なら、いくらなんでも土佐から伊豆の先端にある鳥島まで、流されるわけはない・・・」
C「あなたは選ばれたのよ、そう思いなさい。・・・大海原をゆく船も、そして定められた時代の中を生きなければならない人生も・・・不安定なものね。でも、私が好んだカノチェ(船形)は決して流されなかったわ」
M「確かにあの時代の日本には必要があったのかもしれん。ペリーが開国を迫りに来たのは、ワシが日本に戻って2年後・・・26の時じゃった。20代半ばの若いモンで、10年もアメリカ暮らしした経験のある者など、当時はおらんかったからなぁ」
C「あなたが漂流したのは14の年のことね。わたしも漂流したのよ、12の時からね。母が亡くなって、父は行方知らず・・・。姉と妹の3人でわたしが18になる年まで孤児院で暮らしたわ。頼りになるのは、自分だけ。・・・だから活動的な服がほしかった」
M「ホーランド号に助けられた者は、ワシのほかにも4人おった。けど、ほかの4人はハワイで船を降りた。ホイットフィールド船長にアメリカ行きを勧められた時には、子供ながら悩んだが、漁師の小舟などとは比較にならんほど大きな捕鯨船がすっかり気に入ってしまってな・・・」
C「まず目の前のものに、力いっぱい飛びつく・・・これがチャンスをモノにする最良の手だわ。必要なのは、その勇気よ。まわりのみんなに合わせていただけじゃ新しいコトは何もできないもの。でも自分がはじめれば、みんなついて来るものよ。・・・モンローだって例外じゃないわ」
M「実力はひけらかすもんじゃない。でも、本当に人に役立つ力を持っておれば、仕事はめぐってくるもんじゃ。ワシも再びアメリカへ行かされるとは思っておらんかった」
C「本当に大切なことは何かを見極める目を持つことが必要ね。富をひけらかすために宝石を持っていたって楽しくも何ともない。自分が楽しめれば模造品で充分よ」
M「あんさんの考えは、今でも充分新しい。現代女性が飛びつくわけだ」
C「あら、ありがとう。アナタの英語力だって、現代人の誰もが持ってるモンじゃないわよ」
M「う〜ん、そこが問題じゃ。どういう英語教育をしておるのだか???」
■ジョン万次郎(初めてアメリカの教育を受けた日本人)1827-1898 享年71歳
■ガブリエル・シャネル(近代女性のファッションスタイルを編み出したデザイナー)1883-1971
享年88歳