THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行10 12/13


■笑顔の再会

立ちつくす宮田をビュッと冷たい風が襲った。
夕方までには自宅に帰るつもりでいた軽装の宮田には少しばかり厳しい寒さだった。

住宅街にある小さな駅の前には、気の利いた喫茶店のようなものはなく、開いているのは道路の向こうのコンビニと目の前の本屋だけだ。
とりあえず本屋に入って寒さをしのいで、もう少し考えてみることにした。

店内には思いのほか客が多かった。
休日をうちでゆったりと過ごした後、何となく散歩がてらに立ち寄った・・・という感じのサンダル履きの客が、けっこういた。

宮田は、どのコーナーを見るともなしにブラブラと歩きながら思案をめぐらしていた。
日本文学のコーナーにさしかかったところで足に何かがあたった。
見るとスーパーの買い物袋だ。
そこで立ち読みをしている客の持ち物らしい。

「失礼」

と言って宮田が通り過ぎようとすると「あ、すいません」と客は本を見たまま小声でささやいた。

「!」

聞き覚えのある声。・・・三村だった。

「三村・・・クン?」

まだ考えには何の結論も出ていない宮田だったが、思わず声をかけてしまった。

「課長?!」

「・・・やっぱり」

三村は手にしていた本をあわてて下に置いた。渡辺淳一の『失楽園』だった。
それを見た宮田は一瞬ドキッとした。宮田自身は読んでいなかったが、映画やドラマになってあれだけ騒がれた本だから内容くらいは知ってる。

「好きなの? 渡辺淳一」

「い、いえ、あの。読書が好きなもので、話題になった本はたいてい読んでみることにしてるんですけど、たまたまこれだけ読んでなかったもので・・・」

三村も何となくあわてている。が、ハッと我に返って言った。

「それより課長! どうして、こんなところにいるんですか?」

ウッ・・・と言葉につまった宮田だが、もうこうなったら思いつくことをしゃべるしかない。

「じ、実は息子の参考書を探しに・・・なんて言い訳しても仕方ないな。・・・キミにひと言謝りたくて・・・その」

段取りをふんでいないダンドリー宮田のあわてた姿は、まるでウブな少年のようにも見えた。
その表情を垣間見た三村はクスッと小さく笑った。
三村の笑顔を見て、宮田も少し安心したように笑って見せた。


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