THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行10 11/13


■孝行息子への感謝

宮田は、まず自宅に電話をしてみた。
妻はすぐに電話口に出た。

「起きてたのか? どんな具合だ?」

「ええ、もうほとんど治ってきたみたい・・・あなた、今どこ?」

「実はまだ横浜なんだ。ちょっと話が複雑でね・・・もう少し帰るのが遅くなりそうだ」

「私は構いませんよ。大丈夫ですから」

「洗濯物が・・・」

「洗濯物なら、さっき良樹が取り込んでくれたわ」

「良樹が?! もう戻ってるのか」

「ええ」

つくづく、いい息子だ・・・と宮田は思った。
もう迷うことはない。電話を切った宮田は三村の自宅の最寄りの駅まで・・・初めて切符を買った。

駅に着いたところには、あたりはすっかりうす暗くなっていた。
ここに来るのは、あの2人きりのドライブの朝以来のことだ。

待ち合わせをした本屋が、すぐ目に入った。
あの日は朝早かったのでシャッターを下ろしていて、店の前にある車3台分の駐車スペースが絶好の待ち合わせ場所となった。

確か三村のアパートは、この先の3本目の路地を左に入って100mほど行ったところにある・・・という話だった。
そこまで行けば何とかなるだろう・・・と歩き出した宮田は本屋の前まで来て、ふと足を止めた。

いったい何て言って訪ねて行けばいいんだろう・・・?
それに、いきなり自宅になんか押しかけたら、かえって拒絶反応を示されるのではあるまいか?

長い電車の車中では、とにかく寝過ごさないで目的地まで着くことだけを考えていた宮田は、ここにきてようやく冷静に考えはじめた。


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