THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行10 9/13


■セイコの境遇

「かわいそうな娘なんだよ・・・セイコは」

木下が語り始めたのは2杯目のコーヒーが運ばれてきてからのこと。

木下とセイコが出逢ったのは原宿の表参道だ。
木下が輸入する商品を仕入れている原宿の雑貨店から、打ち合わせを終えて出てきた木下の目に歩道にブローチを広げて売っている露天商が映った。
原宿では別段珍しい光景でもなかったが、何気なくのぞいてみると、なかなか質のいい商品を並べている。
こういうことには目の肥えた木下でもうなづける出来。露天で売るには、もったいないモノだと木下は思った。
スソの破れたジーパンの膝をかかえて、ぼんやりと行き交う人を見つめている露天商・・・それがセイコだった。

「コレ、どこ製?」

木下が声をかけると、当時はまだ暗い目をしていたセイコは商売っけもなく答えた。

「日本製です」

「へぇ、日本製? 見たことないな。・・・どこで作ってるの?」

「私が作りました」

「キミが?」

並べられたすべての商品を買い取ることを条件に木下はセイコを食事に誘った。
満腹になったセイコが初めて笑顔を見せた。

「あ〜満足。・・・実はアタシ、ここ3日ろくなモン食べてなかったんですぅ」

継母に追われるようにして東京に飛び出してきたというセイコは、本格的にデザイナーの勉強をして自立する夢を持っていた。
しかし、現実はそう甘くない。
仕送りのないセイコには、デザイン学校の学費どころかアパート代を払うのがやっとの生活。
普段はファーストフード店でアルバイトをしていたが、夢の実現のためにバイトが休みの時には、こうして露天商まがいのことをやっているという。

「東京に知り合いはいないの?」

「親戚はみんな田舎だし・・・。東京には友達が出てきてることは知ってるんですけどぉ。みんな大学生だし・・・とても相談できないから」

インポートショップの開店準備を進めていた木下は、その場でセイコを雇い入れることを決めた。

「キミはいいもん持ってるよ。うちで働きながら勉強すればいい」

セイコにとっても、それは願ってもない話だった。


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