THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行10 8/13


■伊達男の憂鬱

「洗濯物を取り込む時間までには戻る」

と妻に言い残して宮田が家を出たのは、予定通り30分後のことだった。
駅に着いた宮田は、どうにも腹が減ってきて、ホームの立ち食いそば屋に寄って、うどんを食べた。
ここでうどんを食べるくらいなら、ウチで食べてくればよかった・・・と思いながら。

そうだ! うどんに生卵を入れた方がいい。
立ち食いそば屋を出た宮田は、そう思い立って携帯電話から自宅に連絡を入れて、妻にそのことを話した。

木下との待ち合わせは、木下の店の前だった。
が、休日のかきいれ時だというのに、店にはシャッターが降りている。
宮田が首をかしげていると斜め向かいの喫茶店から顔を出した木下が声をかけた。

「宮! こっち、こっち」

喫茶店に腰を落ち着けた宮田は正面の木下をマジマジと見た。
伊達男には珍しく、今日は無精ヒゲをはやした木下は浮かない顔つきだ。夕べのことを考えれば無理もない話だが。

「すまなかったな・・・宮。夕べは・・・」

「ああ、まぁ」

正直言って宮田にとってセイコとかいう愛人のことなど、どうでもよかったが・・・。問題はセイコに抱きつかれているところを三村に見られたことだった。

「で? あの後、どうだったセイコの様子?」

「ひとしきり泣いた後スッキリした感じでな。駅まではいっしょに行ったが、そこで分かれて後はわからん」

「そうか・・・」

タバコに手をのばした木下が話を続けた。

「まぁ女房の方は一応なだめたつもりなんだよ。ウチに戻れば子供もいるしな、そこでいがみ合うわけにもいかないし・・・。ただ、セイコがな、その後連絡がつかないんだよ」

「どうするつもりなんだ? 今後は」

「いゃあ、たとえ店では働けなくなっても、別の仕事先探してやるなり、当分生活費くらい持ってやるなりするつもりだったけどさ。女房の前じゃそんな話できないじゃんか?! それを伝えたいんだけど・・・」

「続けるつもりなのか? 関係は」

木下は黙ってタバコに火をつけた。


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