THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行10 5/13


■休日の朝

翌日の土曜日は休日にもかかわらず宮田は早くに目を覚ました。
夕べ浸けておいたYシャツが気になったのだ。

枕元をガウンをはおって、そそくさと洗面所に向かおうとした時、妻が目を覚ました。

「アラ、おはようございます。・・・ゴメンなさいね夕べは。寝込んじゃって」

「ああ、いいんだ。それより熱はどうだ?」

「・・・まだ少し」

「じゃあ寝てないと。朝飯は俺が作るから」

「そうですか・・・じゃあ」

宮田が寝室を出ようとすると、再び妻の声がした。

「天気がよさそうだから、洗濯だけして横になろうかしら?」

あわてた宮田は引き返して言った。

「洗濯くらい俺がするよ。・・・だから寝てなさい」

「でも、あなたもせっかくのお休みなんですから」

「俺だってひとり暮らしの経験はある。そんなことヘでもないって。第一、川に洗濯に行くわけじゃない。洗濯は洗濯機がやってくれるんだから」

「じゃあ、お願いします」

ようやく宮田が廊下へ出ると、続けて妻が寝室を出てきた。

「な、何だ? 今度は?」

「え? ちょっとおトイレへ」

「そうか」

妻がトイレに入ったのを確認すると、宮田は急いで洗面所に飛び込んだ。
Yシャツだけが洗面器に浸けてあるというのは、いかにも不自然だ。トイレから出た妻は洗面所に立ち寄ってうがいくらいするかもしれない。それまでに洗面器だけでも始末しておかないと。

しかし、夕べ洗面器を置いたはずの場所に洗面器とYシャツがない。どこいった?

洗面所であたりを見回していると案の定、妻が入ってきた。
ドキッとした宮田は、コップを手にした妻にささやくように聞いてみた。

「お前・・・夕べ起きた?」

うがいを始めた妻が水を吐き出すまでのしばしの間、内心ドキドキしながら宮田は返事を待つ。
妻は言った。

「いいえ。夕べはとくに・・・何か?」

「いや、夜中に戻ってきてバタバタやってたから起こしちゃったかな・・・と思って」

妻が寝室に戻ると、宮田は再び洗面所のあたりをくまなく見渡した。

洗面器は風呂場のいつもの位置に戻してある。
そして、Yシャツは・・・。ほかの洗濯物といっしょにまるめられて洗濯機の中にあった。
手にとって広げてみると口紅の痕跡は残っていない。

いい息子を持った・・・とその時、宮田は実感した。


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