THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行10 4/13


■息子との対話

台所に戻った良樹がコーヒーを入れてくれている間に、まず5回のうがいを終えた宮田はYシャツを脱いで部分洗い洗剤を口紅の跡の部分に染み込ませると水をはった洗面器に浸けた。

下着姿の上にもう一度上着をはおって台所へ行くと、ちょうどコーヒーがはいったところだった。

「お、すまん」

ダイニングテーブルについてコーヒーをひとすすりする宮田。
テーブルの向かいに立つ良樹が、ちょっとニヤニヤしながらそれを見下ろしている。

父親としては何ともバツの悪い話だ。
コーヒーをすすりながら宮田は懸命に次の言葉を探していた。

「うまいコーヒーだな。豆は何だ?」

「・・・ネスカフェ」

話が続かない。
やがて良樹もテーブルの向かいについた。

「・・・やるじゃん」

息子がつぶやいた。

「な、何が?」

「いいって・・・別に。男同士なんだから、サ」

確かに声変わりした息子は、もうイッパシの男の臭いを漂わせるようになっていた。

「ところで、どうなんだ? お前の方は。例の年上の彼女とは」

「最近会ってない。期末テストだし」

「そうか」

「今度会うのは・・・クリスマスかな?」

「そう言えば、もうすぐクリスマスなんだな・・・早いな、もう今年も終わりだ」

向かい合わせで静かにコーヒーをすすり合う父と息子。
おもむろに父は上着のポケットからサイフを取り出すと、5千円札を1枚息子に差し出した。

「・・・口止め料?」

「バカ! デート資金だ」

「サンキュー」

良樹は飲み終えたカップを流しに置くと、2階へ戻ろうとした。
父は、デート資金を提供したものの、万が一、良樹が彼女と責任のとれない事態になるのはマズイと感じて、ひと言だけ注意しようと呼び止めた。

「おい、良樹。くれぐれも・・・」

立ち止まって振り向いた良樹は言った。

「わかってるって。かあさんにはナイショにしとくよ」

父は次の言葉も出せずに息子を見送った。


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