THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行9 10/10


■大混乱

木下の言葉を聞いた瞬間、セイコはテーブルを叩いて叫んだ。

「仕方ないじゃないでしょ! どーするのよ私は?! 大学出ても就職ないのにぃ。アタシ大学にも行ってないのよぅ」

木下の女房はきわめてクールだ。

「その気になれば水商売でも何でもあるでしょ・・・そう! そんなに男と金が好きならソープランドにでも行ったら?」

そう鼻で笑った木下の女房に向かって、セイコはテーブルの上のコップの水を浴びせた。

「馬鹿にしないでよ!!」

「やったわね!」

立ち上がってセイコに食ってかかろうとした木下の女房を木下が必死に止める。

「明日から店に出てこないでちょうだい!!」

「誰が行くか! あんな店」

そう言って出口に向かうセイコを目で追った宮田は、再び木下の方を見る。
ずぶ濡れになった女房にハンカチを渡しながら木下は宮田を祈るような眼差しで見ている。

仕方なく宮田はセイコを追って喫茶店を出た。

セイコは洗面所の前に立ちすくんでいた。
とりあえず声をかけてみるしかない。確か名前はセイコとか・・・言ったはずだ。

「セイコ・・・さん?」

その声に振り返ったセイコの目は涙だいっぱいだった。

「どうして? どうしてアタシがこんな目に遭わなきゃなんないのぉ?」

そう言われても困る・・・と宮田は思ったが、涙ぐむ若い女性を目の前に、そうも言えない。

「・・・まぁ、人生いろいろあるから」

その言葉を聞くやいなや、セイコはわっと泣き出して宮田に抱きついてきた。

「お、おい。キ、キミ・・・」

泣きじゃくるセイコの腕の力は増すばかりだ。

と、その時、洗面所からひとりの女性が出てきた。
まずい! 人が見てる・・・と一瞬顔を伏せた宮田だが、通りすがりの女性は足を止めて宮田の顔をのぞき込んだ。

三村しよりだった。

三村と目が合った宮田は思わず全身が硬直した。
呆然とした三村の目にもジワッと涙がこみ上げてきている。

「課長・・・私って・・・私って、そんなに魅力ないですか?」

三村は、そうつぶやくとその場を走り去った。
追って行こうにもセイコにまとわりつかれた宮田は身動きがとれない。

どうして俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ・・・宮田はセイコ以上に泣きたくなった。

・・・以下、次週

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