THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行9 9/10


■セイコ逆上

メシでも食べるか・・・という木下の提案に対し、レストランに入ると三村との時間に間に合わなくなるかもしれないと考えた宮田は空きっ腹をおさえて、とりあえず喫茶店に入ることを推奨した。

喫茶店に腰を落ち着けるなりセイコが言った。

「アタシお腹すいちゃったぁ。サンドイッチでも食べよっかなぁ〜」

コーヒーを4つとクラブサンドイッチを注文し終わると木下が話をはじめた。

「とにかく、今日のところは・・・男同士の約束を破ってすまないが宮、うちの女房の誤解を解いてやってほしいんだ」

「そうだな・・・仕方ない。奥さん、ご迷惑をおかけしたようですが、こういうワケなんです」

宮田はうまく話を合わせたつもりでいた。しかし、

「こういうワケって、どういうワケよ? 宮田さん」

と木下の女房に言われると返す言葉がない。

注文した品物が届いた。
セイコは早速、サンドイッチをつまみはじめる。

「おいしいよ、これ。宮ちゃんも食べる。はい、ア〜ン」

沈黙の重荷と空腹のつらさもあって、宮田は大きな口をあけた。

「ア〜ン」

確かにサンドイッチはうまかった。
そんな宮田たちにひたすら冷たい視線を送っている木下の女房が言った。

「セイコちゃん。アナタ本当に宮田さんと付き合ってるの?」

「本当ですぅ。あのお店にお勤め紹介してくれたのも宮ちゃんだもんね〜」

「あ、ああ」

宮田は努めて笑顔を見せた。

「もう、いいじゃないか。宮田がここまで腹を割ってくれたんだ。これ以上、恥かかすなよ」

木下が口を挟む。

「何か納得いかないのよね〜」

木下の女房は、そう言いながらタバコに火をつけた。
そして音をたてて煙を吐き出すと言った。

「とにかく、セイコちゃんには悪いけど、お店は辞めてもらいますからね」

これまで、ひたすらニコニコしていたセイコの表情がサッと変わった。

「どうしてアタシがお店辞めなきゃなんないのよ? この就職難にぃ!! ・・・だからアタシは社長の愛人じゃないって言ってるでしょ〜が!」

宮田と木下はセイコの強い口調に目を丸くした。
2人の男は、すっかり言葉を失ってしまったが、木下の女房は動じない。

「たとえ、アンタたちの話が本当だったとしても私はイヤですからね。友達の愛人をうちで囲ってやってるようで、宮田さんの奥さんに申し訳ないわ。どっち道、大した仕事ができるわけじゃないし・・・」

「まぁ、それならそれで仕方ないな」

木下がつぶやいた。


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