THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行9 8/10


■セイコは脳天気

この間は木下のスーパーカーで来た横浜のホテルも、電車を乗り継いでくると案外遠い。
こんな遠くまで三村を呼びだしてしまったことを少しだけ後悔しながら、宮田はホテルへと急いだ。
駅からホテルまでの間が意外と離れていることを計算に入れなかった宮田は5分ほど遅れてホテルに着いた。

ロビーには、木下と木下の妻が無言でソファーに座っている。
浮かぬ表情で彼らに近づいた宮田は軽く挨拶をして言った。

「今日は、お嬢ちゃんは?」

ひたすらブスッとしている茶パツの女房に変わって、木下が答えた。

「夜遅くなるといけないからな・・・おばあちゃんに預けてきたんだ」

宮田はあわてて言った。

「そりゃあ、遅くなっちゃいけないよ。たとえ預けてあっても遅くなっちゃあ・・・」

まだ三村との約束の時間には早かったが、いつ三村がここを通るかもわからないと思った宮田は木下に提案した。

「ここじゃあ何だから、どっか喫茶店にでも入って話そうじゃないか」

「いや、少し待とう。もうすぐ来るから」

「もうすぐ来る?」

「もちろん・・・あ、来た」

振り返った宮田の視界に飛び込んできたのは、この寒空にミニスカートをはいた、木下の愛人、安藤セイコだ。
セイコは3人を見つけるなり、オーバーアクションで宮田の腕をつかんだ。

「おまたせー! 宮ちゃん」

たじろく宮田。間違いなく、これは木下の演出に違いはないが、ハタチくらいの女性にさわられるなんて何十年ぶりのことか・・・!

ソファーでメンソール煙草をふかしていた木下の女房がセイコを見るなりキッと立ち上がった。

「やめなさいよ! セイコちゃん!! わざとらしい。・・・宮田さん、本当のことを教えてよね。私と娘の人生がかかってるんですからね!」

宮田の腕にぶらさがったセイコはひたすらニコニコしている。
木下は女房のうしろから、すまなそうな顔で宮田を見ているが何も言えない。

とにかく、こんな状態のところを三村に見られたら大変だ。

「と、とにかく奥さん。ここじゃあ何だから、場所を移しましょう」


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