THE THEATER OF DIGITAKE
初めての不旅行9 7/10


■三村の決心

宮田がオモテの食堂でうどんを食べて早めに席に戻ると、再び携帯電話が震えだした。
また木下からだ・・・と思った宮田は、やや元気のない口調で電話に出た。

「宮田・・・だが」

「あ、 課長。・・・まだ調子が悪いみたいですね?!」

声の主は三村だった。どうも公衆電話かららしい。

「いや、そんなことはない。おかげでだいぶ良くなってきたところだ。・・・どうした?」

「すいません携帯にかけちゃって・・・。社内だとちょっと言いづらかったもので」

「いや、構わんよ。そのための携帯だ。いや、まぁ。・・・そういえば昨日も何か相談があるとか言ってたね」

「ええ・・・。課長、今夜お時間いただいていいですか?」

「今夜?! 今夜かぁ・・・」

「あの、まだ体調が良くないようならいいんですけど」

「いや、そうじゃないんだが・・・」

宮田は悩んだ。三村のことが気になるのは当然だが、木下との約束を破るわけにもいかない。
しかし、木下のところの話は、きっとすぐに終わるだろう・・・第一、長く話そうにも話す内容がない。
そう考えた宮田は言った。

「場所は・・・いつものところじゃなくてもいいかな? ちょっと遠くなるかもしれないが・・・」

「ええ、私ならどこでも結構です。どこならお会いできますか?」

「横浜なんだよ。キミのウチとは正反対だな」

「でも横浜ならウチまで京浜東北で一本ですし・・・。どうせ明日はお休みですから」

「そうか・・・そうだな、明日休みだし、それじゃあ横浜のホテルで待ち合わせにしよう。セントラルホテル。知ってるよね? みなとみらいの。ちょっと近くで用事があるんだが、すぐ終わるから。・・・ロビーは何だから、最上階のラウンジで・・・7時半くらいでどうだろう?」

「ホテル・・・ですか?」

三村の脳裏に夕べ見た『ダ・ヴィンチ』の特集記事が浮かんできた。
そんなつもりで言ったわけではないダンドリ屋の宮田は三村の返事が遅いのを気にして言った。

「7時半じゃ遅いかな?」

三村はなにかを決心した口調で答えた。

「いえ時間はいいんです。・・・それじゃあ今夜、ホテルで」

昼食を終えた課の連中が戻ってきた。
宮田は、また元気をとり戻して仕事をはじめた。


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